新規事業を立ち上げる前に知っておきたい10のポイント|新ビジネスの種

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2018年5月15日

第1回  「新規事業」の創出は、「企業内起業家」としての第一歩から

“イノベーション”

企業を取り巻くビジネス環境は、不安定で不確実、かつ複雑で曖昧模糊な混沌とした状況、つまりVUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)の時代へと本格的に突入しています。そのような中、持続的な成長をめざすため、“イノベーション”を経営課題の一丁目一番地に定めた企業が、専門組織の立ち上げや、オープンイノベーションの推進、スタートアップ企業との連携等々の様々な取り組みを、業界や企業規模問わず展開している、というニュースを目にしない日はありません。

ただ、この”イノベーション”は、古くは「技術革新」と訳されたこともあり、必ずしも正しい文脈で捉えられていない言葉の一つと言えます。ここで、唯一絶対の定義を行う必要はないのですが、一つの例を紹介すると、イノベーション研究で知られる関西学院大学の玉田俊平太教授は「創新普及」と訳しています。つまり、「機会を新しいアイデアへと転換する」という「創新」と「それが広く実用に供せられるようにする過程」という「普及」が合わさっていると解釈できます。

では、企業の立場として、この“イノベーション”をどう捉えればよいでしょうか?

ここで重要なのは、画期的な技術革新が伴うことが絶対条件ではなく、あくまでも、社会やまだ見ぬ顧客にとってこれまでにない新たな価値が生み出されているかどうか、且つ、それがビジネスという仕組みを通じて、社会に広まっているのか、ということです。
この一連のプロセスを推進することが、企業における「新規事業」であり、結果、自社の持続的な成長に寄与するのです。

では、誰も先を予測できないこのVCUAの時代において、企業としてどのように「新規事業」を創出していくことができるのでしょうか?

現時点で、万人にとっての“正解”は、誰も示すことができないはずですが、所謂答えの無い、正しいかどうかも分からない、茨の道である「新規事業」創出の取り組みには、既存のマネジメントの中で育まれてきたものとは異なる、新たな「考え方」と「やり方」が必要になる、ということが分かってきました。

当コラムでは、計2回に渡り、筆者が取り組んだ産学連携共同研究 や、実際の新規事業創出支援活動から得た知見を踏まえ、「新規事業」を創出するために有効と考えられる新たな「考え方」と「やり方」を、ご紹介していきます。

第1回となる今回は、その「考え方」と「やり方」とは一体何なのか、そもそもどのような構造で捉えておけば良いのか、また、その前提として何が必要になるのか、について触れていきます。
まず、この「考え方」と「やり方」とは、どのような構造となっているかを示したのが、下の図です。

「新規事業」を創出するには、社会やまだ見ぬ顧客が求める、これまでに無い新たな価値を創造することをめざす必要がある、ということは先に触れましたが、そのためには、どんな「考え方」に基づき、どんな「やり方」を駆使すれば良いか、を自分たちで定義して、捉えることが重要です。そして、それらの大前提になるのは、その企業、もっと突き詰めれば、本人の「在り方」です。
実際の取り組みの中で、「あなたは一体何を成したいのか?」を常に問い続けることになります。このような構造に基づき、その意味合いを付加したのが、下の図です。

“価値づくり”に取り組むために必要なのは、 “イノベーティブ思考”という新たな「考え方」を共通言語として、“多分野にまたがる反復型アプローチ”という新たな「やり方」を駆使することであり、その前提として、“個”としての“情熱”を抱き続けることであります。
ここでお気づきでしょうが、「新規事業」の創出そのものは、企業としての取り組みではあるものの、推進に向けて問われるのは、“個”としての全人格的なコミットメント、つまり“覚悟”が重要となるのです。

つまり、予測ができない中であっても、自分たちで“正解”たらしめる不断の努力を惜しまず、且つ、現状維持バイアスに抗う強さと、既存の資源をうまく借用するしたたかさを兼ね備えた、「企業内起業家」としての“自覚”と“行動”が、「新規事業」の創出には必要となるのです。

ある意味、「精神論」に聞こえるかも知れませんが、これまでの延長線上ではない非連続の取り組みには、この“覚悟”があるからこそ、新たな「考え方」と「やり方」が血肉となり活きてきます。
何もない「ゼロ」からカタチにする「イチ」までは、進むべきレールが予め敷かれてはいないので、非常にパワーがかかるものですから、「自分には向いていない」「もっと優秀な人がやればいい」「結局、社長の仕事でしょ」と思う方も多いかも知れません。
しかし、このような茨の道だからこそ、とても遣り甲斐があり、仮に失敗という結果となっても、自身の成長に繋がるものと言えます。

繰り返しますが、これは、持って生まれた“能力”ではなく、“覚悟”です。
ここ最近は、この“覚悟”を持った「企業内起業家」が、企業の枠を超え、所謂“同志”として繋がり始めています。
仮に社内で孤立する時期があったとしても、この“覚悟”をもってもがき続けていれば、きっと想定外の方が助けてくれるはずです。
このように、まずは”圧倒的な当事者性”をもつことこそが、「新規事業」を創出するための大前提になるのです。

次回は、この大前提を踏まえ、「新規事業」の創出に有効と考えられる新たな「考え方」と「やり方」に触れていきます。

筆者の所属する株式会社大塚商会では、“イノベーション”分野において、第一線で教育・研究・実践に取り組む慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科と「中堅・中小企業がこれまでの延長線でない新規事業を創出する考え方とやり方」をテーマとした産学連携共同研究に取り組んでおり、そこでの知見から企業の経営をサポートする「経営支援サービス」のベーシックメニューとしての「新規事業創出支援プログラム」を2015年にリリースしています。

清水 詠氏

<プロフィール>
  • 株式会社 大塚商会 トータルソリューショングループ 経営支援サービス室
  • 経営管理修士(MBA)
  • 日本アクションラーニング協会認定ALコーチ
  • 経営品質協議会認定セルフアセッサー
  • 関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科修了(MBA)
  • 日本ボウズメガネ協会 会長
1996年、株式会社大塚商会入社。流通業を中心としたITシステムを提案する営業を経て、2001年よりマーケティング本部に異動し、B2B・Webサービス・アウトソーシング領域における新規ビジネス企画・開発を10年以上担当。現在は、中堅・中小企業の持続的成長を目指した「経営革新」や「事業戦略立案」の支援と共に、産学連携による共同研究から「新規事業創出支援プログラム」を自ら立ち上げ、多様な業種・業態・規模の企業との協創に基づき、新たな顧客価値・社会的価値を創造する「新規事業創出」支援にも取り組む。その傍ら、心身の鍛錬とセルフマネジメント能力向上のためマラソンやトライアスロンにも勤しんでいる。