ヘルスケアビジネスで成功するマーケティング|新ビジネスの種

ライフサポート展2017

2016年6月15日

第2回  ヘルスケアの商品開発、サービス創造のためのBRAND+ing

BRANDの価値を伝える

「自己紹介しましょう!」となると、「●●株式会社で●●という部の●●長しております●●●●と申します。本日はどうぞよろしくお願いします」みたいな、名刺をそのまま読み上げるような人たちばかりです。同じ感じのスーツを着て、基本構文の単語だけを入れ替えて、果たして、その人の価値をどこまで認識できるのでしょうか? 聞いたことある会社か、知らない会社か。高い身分の役職か、面白そうな役職か。よくある名前か、珍しい名前か。そんな感じでしか認識できないのではないでしょうか。人も、ビジネスでは「商材」となるブランドの一つです。“一押し”や“一芸”がないと、その人を認識し、記憶するまでになかなか至りません。

ブランドには2つの構成因子があります。ブランドを因数分解すると、機能的価値を表す「知覚品質」と情緒的価値を表す「感覚品質」に分けられます。冒頭の肩書きばかりの自己紹介は、まさしく知覚品質をオンパレードしたもの。これに、居住地とか、家族構成とか、年収とか、出身大学とか、資格とか入れたら、聞いている方が赤面してしまうくらいに完璧な知覚品質の出来上がりです。

さて、自己紹介と同様、商品やサービスといったブランドの価値を伝えるときについても、一辺倒な紹介で済ませていないでしょうか。

健康や医療、美容といったヘルスケアの商材の場合、その機能的価値「知覚品質」を構成するものに、1. 有効性、2. 安全性、3. 簡便性、4. 経済性、等があげられます。もう一方の情緒的価値「感覚品質」を構成するものは、どの商材にも共通して、1. 共感性、2. 安心感、3. 事前期待値、4. 事後満足度、等があります。読者の皆さんは、すでにお気づきになったかもしれませんが、私たちはヘルスケアの商材の「価値」を伝えようとするとき、おおよそ機能的価値だけで差別化を図ろうとしています。つまり、あの恥ずかしい自己紹介と全く変わらないことをしているということです。たとえば、「有効性については、ウチの会社の商品Aの方があの会社の商品Bに比べて1.5%高いという結果が得られています。すごいでしょ!」とか、「経済性について、ウチの商品Aをご利用いただいた場合、あの会社の商品Cに比べて年間500円お安くなります。お得でしょ!」とか。どこかの製薬会社がやってしまったように、優位になるデータだけを抽出して、それらを統計学的に操作し、医薬品のプロモーションに用いていた…なんていう事件は、その典型的な例です。

でも気づいてください。価値を伝えるもう一つの要素に、生活者ニーズから発想した情緒的価値があることを。

BRANDの価値が伝わる

医療の世界に、“エビデンス-プラクティス・ギャップ”という問題があって、医療従事者の間では時折、ディスカッションのテーマになります。意味は「理論と実践の乖離」、つまり、理論通りに正しい指導や治療をしたところで、実際の臨床現場では理論通りにいかないどころか、患者はそれを実践すらしなかったりする、という状況のことです。そのとき、情報価値が伝わるようにするためには、エビデンスアプローチだけじゃなく、ナラティブアプローチが大切だよね、という結論に達するわけです。エビデンスとは機能的情報に基づく科学的根拠、ナラティブは「語り」と訳されることも多いですが、ナレーションと語源が一緒の言葉で、情緒的情報に基づく心理的介入のことを指します。

この構造と同じことが求められるのが、ブランディングです。ブランドにINGがついたブランディングとは、商材価値が伝わるようにするための手法。ブランドの機能的価値「知覚品質」と情緒的価値「感覚品質」をもって、物語をつくる作業になります。

生活者がヘルスケアの商材を「あ~、いいもんだなぁ」と享受するにあたっては、商材の機能的価値だけでなく、この商材をもって「(病気といった)損失を回避したい」のか、「(健康といった)利得に接近したい」のか、生活者のそのどちらかのニーズに明確に応えてあげる情緒的価値を示してあげることが大切なのです。たとえば、損失を回避したい人には、あなたのその強い義務感に応える機能がこの商品にはあります、利得に接近したい人なら、その強い理想像に応える機能がこの商品にはあります、といった具合に。ブランディングの決め手は、機能に情緒をプラスして!です。最近話題の、あのフィットネスジムが、見事に生活者ニーズをキャッチしたブランディングをしていることがわかりますでしょ?!

執筆者:西根英一(株式会社ヘルスケア・ビジネスナレッジ 代表取締役社長、マッキャン・ワールドグループ 顧問、事業構想大学院大学事業構想研究所 客員教授)
編集人・編集責任者:武坂

西根英一氏

<プロフィール>
マーケティングデザイン開発とコミュニケーションデザイン設計の専門家。商品開発、サービス創造をはじめ、市場戦略、販路開拓、顧客獲得のための“精緻な設計図”を描き、広告プロモーション、戦略PRを最適化する。近著に、『生活者ニーズから発想する健康・美容ビジネス「マーケティングの基本」』(宣伝会議)。 大塚グループ、電通グループを経て、マッキャン・ワールドグループ。大手企業、全国の中小企業のヘルスケアビジネスをマーケティング戦略面からコンサルテーション、地方自治体の地域ヘルスプロモーションを支援する。各種研究機関の役員、委員も務める。大学教員(専門:ヘルスケアマーケティング、若者マーケット)。講演登壇、番組出演、教育研修の機会多数。