新規事業を立ち上げる前に知っておきたい10のポイント|新ビジネスの種

2017年5月16日

第1回  なぜ新規事業に取り組むのか

「新しいことに取り組まないといけないとはわかってるんだけど、なかなか実行に移せていなくて、、、。」

ある経営者にコンサルティングしている時に出た言葉です。

本業が忙しくてなかなか新規事業に手が回らないという事情もあると思いますが、「本当に新規事業って今やる必要があるの?」という疑問もお持ちなんだと思います。恐らく、この経営者さんと同じように感じている方は多いのではないでしょうか。

今回のコラムでは、「なぜ新規事業に取り組む必要があるの?」という点について考え、中小企業経営者の方々が新規事業への取り組みを検討するきっかけにしていただきたいと思います。

一般的に、新規事業を始める目的は大きくは二つあります。
一つは、
「本業に代わり得る事業を創ること」。
もう一つは、
「将来の経営人材を育成すること」
この二点です。

まず一点目の「本業に代わり得る事業を創る」という点から考えていきます。
この点については、「日本経済の縮小」と「プロダクト・ライフサイクル」という視点から本業に代わり得る新規事業を創る必要性について考えます。

経済の縮小という視点

残念ながら今の日本経済を取り巻く環境は、少子高齢化、個人消費の低迷など決して楽観できる状況ではありません。来たるべき人口減少時代を考えると多くの業界で市場規模は縮小することが予想されます。これは、同じ事業を同じモデルで続けていく限り売上は減少していく可能性が高いということを意味します。

「その話はわかるけど、新規事業のようなリスクが高いことに取り組むよりも、経営努力でシェアアップして、売上を伸ばした方が良いのではないか?」

と、疑問に思われる方もおられるでしょう。

短期的にはこの考え方は合理的な面もあります。確かに、新規事業で1億円の利益を上げるよりも今のビジネスで1億円増益させることの方が実現可能性は高いかもしれません。

しかし、中長期的視点で考えた場合(例えば5年から10年)、縮小し続ける市場環境の中で成長を持続させることがどの程度可能なのか経営者としては熟考が必要です。今のビジネスで改善を続けていくことは当然行うべきなのですが、5年先、10年先を考えた時に市場の見通しが厳しいのであれば、その打開策を見出すことが経営者としての重要な役割となります。

その打開策の有力な候補の一つが新規事業の立ち上げです。時代に合った(つまり、市場が拡大していく)ビジネスを新たに創り、今のビジネスの縮小を埋め合わせる、あるいは今のビジネスにとって代わる役割を担わせることは企業の持続的成長を実現するための戦略として益々重要になります。

プロダクト・ライフサイクルという視点

事業のライフサイクルという点からも新規事業の必要性を考えてみたいと思います。

仮に市場が縮小しないとしても、「定番商品」と言われる一部の例外を除き、ほとんどの製品やサービスには市場から撤退する時期が来ます。製品やサービスが生まれてから撤退するまでを「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」の4つのステージに分類したものが「プロダクト・ライフサイクル」です。

自社の事業がプロダクト・ライフサイクルの成熟期、あるいは衰退期に入っているならば、新規事業を考えるべきタイミングです。特に衰退期に入っているならば早急に検討する必要があります(タイミング的には少し遅いですが)。

ただ現実には事業が成熟期にある場合、新規事業を考える経営者は意外に多くありません。成熟期は安定した売上と利益を得られるステージなので、事業に対する危機感を感じにくくなります。

しかし、売上と利益が確保できる時期こそ新規事業を考えるベストタイミングです。新規事業には当然リスクが伴います。しかし、成熟期であれば財務的余裕があるため新規事業のリスクは十分にカバーでき、仮に立ち上げがうまくいかなかったとしても次のチャレンジに取り組むことが可能です。

一方、衰退期に入ってから新規事業に取り組むことになると、十分な資金を投入する余裕がなくなる可能性もありますし、「この新規事業がうまくいかなければ会社が傾く」等、失敗が許されないギャンブルのような新規事業にならざるを得ません。会社を安定的に経営するのであればこのようなギャンブル的な新規事業の立ち上げは避けたいところです。

もちろん全ての企業に新規事業立ち上げが当てはまるわけではありません。例えば、自社のビジネスが成長市場にあり、まだ導入期、あるいは成長期にいるということであれば新規事業の立ち上げよりは、既存事業を徹底的に伸ばすことに集中するほうが合理的な戦略だと言えます(ベンチャー企業の場合はこのようなステージにいる企業は多いと思います)。

しかし、もしもそうでないなら、新規事業の立ち上げを検討し持続的な成長をデザインすることは十分に検討に値すると言えるでしょう。

二点目の「経営人材の育成」という観点から新規事業の有効性を考えたいと思います。

経営人材育成のための新規事業立ち上げ

中小企業庁の調査によると、経営人材の育成は多くの中小企業経営者の頭を悩ませる重要な問題となっています。
現状の業務を滞りなく遂行させることでもある程度の教育はできるのかもしれませんが、「経営者感覚を身に着ける」という点を考えると、このやり方では十分な効果を期待するのは難しいでしょう。

小規模でも一つの事業を自ら立ち上げ、重要な意思決定をし、損益を含めた責任を持たせて、経営をさせてみることが経営者感覚を身に着けるうえでの効果的な訓練となります(当然ながら人事制度設計にも工夫が必要ですが、この点は後日このコラムで述べたいと思います)。

もちろん新規事業が失敗すると大きな財務的損失が出ますので教育目的だけで新規事業を推進することは賛成できません。しかし、次世代の柱となる事業を作るチャレンジをしながら将来の幹部を育成するというのは極めて価値が高い取り組みと言えるでしょう。

まずは次世代の経営者候補を選抜し、その人材に新規事業立ち上げから推進を経験させることが後継者問題を解決することに繋がります。(そもそもそういう人材がいないというお悩みを聞くこともありますが、その場合は採用や教育全体を見直す必要があるかもしれません、、、。)

以上、新規事業立ち上げの必要性を「本業に代わり得る事業を創ること」、「将来の経営人材を育成すること」という観点から述べてきました。「会社の持続的な成長をより確実なものにしたい」、とお感じになっている経営者の方は、是非新規事業への取り組みを検討して頂きたいと思います。

執筆者:株式会社eパートナーズ  代表取締役 出口 彰浩氏
編集人・編集責任者:武坂

出口 彰浩氏

<プロフィール>
株式会社eパートナーズ(http://www.epartners2015.com/) 代表取締役。中小企業の成長戦略達成支援、新規事業構築支援等のコンサルティングを提供。成長意欲が高い中小・ベンチャー企業を中心に、経験から培ったノウハウと最新の経営理論の両面を駆使した戦略を提案。
某シンクタンクで経営コンサルタントとしてのキャリアをスタートし、約7年新規事業開発やマーケティング等のプロジェクトに参画。2年間の海外MBA留学を経てベンチャーキャピタル業界へ転身。10年以上に渡り経営メンバーとして多くのベンチャー企業の成長に携わる。
趣味の剣道は30年以上のキャリアで、錬士七段。少年剣道の指導も実施。剣道の教えは驚くほど経営にも当てはまると学びながら日々現場で奮闘中。