新規事業を立ち上げる前に知っておきたい10のポイント|新ビジネスの種

2017年8月15日

第4回  新規事業立案に不可欠な着眼点

今回は実際に新規事業プランを作る際に持っておくべき着眼点について考えたいと思います。

新規事業プランを考える際に最初にするべきことは、会社として取り組む新規事業の大まかな領域を経営陣が明示することです。例えば、「B2Bビジネスであること」や「飲食業は行わないこと」等、「○○であること」あるいは、「○○はやらない」という大枠を事前に提示することです。フェアゾーンとファウルゾーンをあらかじめ決めておくと考えてもらえるとイメージしやすいかもしれません。

新規事業開発でうまく行かないパターンの一つに以下のようなものがあります。

「今までの考えに囚われることなく自由な発想で考えてほしい」という方針で新規事業プランを募集するものの、実際にプランが出てくると
「何故それを当社が取り組む必要があるのか?」や「その事業は当社らしいのか?」等の反対意見が多数出て、否決されてしまうというパターンです。

自社が取り組むべき正当な理由や自社らしいかというのは新規事業開発を行う際には当然考えて良い項目です。しかし、事前にそれを明示することなく後から持ち出されて、プランが否定されるということが繰り返し行われると、「どうせプランを出しても何か理由を付けられて否決されるだけだし、、、。」というネガティブな雰囲気が社内に蔓延してしまい、新しいプランを出そうというモチベーションが下がってしまいます。結果として将来性のあるプランが出にくい状況になってしまいます。

このような事態を避けるため、どこがフェアで、どこがファールかを大枠でいいので事前に提示することが新規事業プランを作るうえでは重要です。

大枠を提示した後は実際に新規事業プランの評価を行います。ただ、意外なことにプランの評価をするための軸を決めずに、感覚で新規事業プランを選定している企業が数多くあります。この方法でも「経営者のカン」で運良くうまくいくケースがないとは言いませんが、高い確率で成功させようと思うのであれば合理的で納得性の高い軸を設定して新規事業プランを選定することが求められます。

その評価の軸として非常に有効なものが「市場の魅力度」と「自社との適合度」の二つです。

市場の魅力度

市場の魅力度は、さらに二つの軸に分けて考えると理解しやすくなります。一つ目の軸は「想定される市場規模の大きさ」、二つ目の軸は「市場の成長性」です。

想定される市場規模が大きいということはその新規事業が成功した場合には大きな売上、利益をもたらす可能性が高いということを意味します。次世代の成長の柱を作るという意味ではある程度の規模が見込まれる市場を選ぶ必要があります。

「ニッチな市場から入って行った方がいいのではないのか?」という考え方もあり得るかと思います。これはその新規事業が目標とする売上額がどの規模なのかが大きく関係しますが、次世代の柱となる事業を創るという点を考えると、たとえニッチから入ったとしてもその市場から横展開が可能で、トータルで考えると大きなビジネスになり得るかどうかを考えることが必要となります。

また、市場の成長性も極めて重要な要素です。成長率が高い市場では、市場の伸びが後押しとなって事業自体をより成長させやすくなります。当然競合他社が参入してくるというデメリットもありますが、市場の成長から来る事業の後押し効果はそのデメリットを十分にカバーしうるメリットと言えます。

逆に、現状の市場規模がある程度はあったとしても、マイナス成長の市場であれば新規事業を立ち上げることは極めて難易度が高くなります。市場規模がある程度あるということは既に競合他社が一定数存在すると考えられ、縮小していく市場をこれらの競合他社と取り合うということになります。新規事業として参入してこの競争に打ち勝つこと自体も簡単ではありませんが、仮に競争に打ち勝ち短期的にある程度の成功ができたとしても、将来的には市場が縮小していくということを考慮すれば成功してもその見返りは大きくなく、次世代の柱となる事業にはなりにくいというのが現実です。

また、将来的にベンチャーキャピタル等の外部投資家から資金調達を考えている場合(例えば新規事業部門を分社化して外部からの資金も受け入れるような場合)、成長市場でビジネスを作ることは必須となります。投資家はそのビジネスが成長市場にあるかどうかをかなり重要視します。縮小市場で戦ってしまうと外部投資家からの資金調達は難しいと考えた方が良いでしょう。

このように、「想定される市場規模の大きさ」と「市場の成長性」の両方を総合的に評価したうえで市場の魅力度を判断していきます。

自社との適合度

自社との適合度とは、「自社が所有する経営資源をどの程度活用できるか」と言い換えることができます。

これは「アンゾフの成長マトリクス」というフレームワークを用いて考えることができます。アンゾフの成長マトリクスとは、「製品」と「市場」の二軸を設定し、さらにその二軸を「既存」と「新規」に分けることで4つの象限に分類するもので、企業の成長戦略を4つの形で表しています。
(図1参照)

アンゾフの成長マトリクスにおいて新規事業としての成功確率が相対的に高いのは、「新製品開発戦略」と「新市場開拓戦略」の二つです。

新製品開発戦略とは既存市場に新製品を販売する戦略です。この戦略は、自社の顧客という自社のリソースを活用できるという点で自社との適合度が高いと言えます。既に取引関係がある顧客にダイレクトにアプローチできるという点で、製品が完成してから早い段階で売上が立ちやすく、事業立ち上げ成功の確率は相対的に高くなります。

新市場開拓戦略とは、既存製品を新市場(新しいターゲット)に販売するという戦略です。既に販売実績がある製品を活用できるという点で製品開発のリスクはさほど高くありません。新顧客を開拓しなければならないという点においてハードルはありますが、この戦略も新規事業を立ち上げるうえでの成功確率は相対的に高いと言えます。

一方で、多角化戦略は上記の二つの戦略と比べると適合度は低くなります。多角化戦略とは新製品を新市場に展開する戦略です。この戦略では製品を新しく作って、さらに顧客基盤も一から作る必要があるため相応のリスクをとることになります。この意味では、社内の新規事業ではあるものの、通常のベンチャー企業立ち上げとほぼ同じリスクをとってスタートすると考えて良いでしょう。(資金面ではベンチャー企業よりも多少有利な点もありますが)

ただ、新規事業開発において多角化が全てダメだという訳ではありません。例えば、対象とする市場の魅力度が極めて高い場合等は検討に値するケースもあります。「チャレンジ領域」という位置づけでリスクが高いことを覚悟したうえであれば取り組む価値も出てきます。また、リスクを下げるためにその市場においてリソースを持つ他社とアライアンスを組むというのも一つの方法です。

以上に述べた通り、市場の魅力度と自社との適合度を考慮することで成功確率が高い新規事業プランを作ることが可能になります。成功確率という点で考えれば市場の魅力度と自社との適合度の両方が高い領域で新規事業を立ち上げるのが大原則となります。
(図2参照)

次回は今回ご紹介した考え方を活用しながら、実際に立ち上げた新規事業の事例をご紹介したいと思います。

執筆者:株式会社eパートナーズ  代表取締役 出口 彰浩氏
編集人・編集責任者:武坂

出口 彰浩氏

<プロフィール>
株式会社eパートナーズ(http://www.epartners2015.com/) 代表取締役。中小企業の成長戦略達成支援、新規事業構築支援等のコンサルティングを提供。成長意欲が高い中小・ベンチャー企業を中心に、経験から培ったノウハウと最新の経営理論の両面を駆使した戦略を提案。
某シンクタンクで経営コンサルタントとしてのキャリアをスタートし、約7年新規事業開発やマーケティング等のプロジェクトに参画。2年間の海外MBA留学を経てベンチャーキャピタル業界へ転身。10年以上に渡り経営メンバーとして多くのベンチャー企業の成長に携わる。
趣味の剣道は30年以上のキャリアで、錬士七段。少年剣道の指導も実施。剣道の教えは驚くほど経営にも当てはまると学びながら日々現場で奮闘中。