新ビジネスの種

2012年5月15日

これだけは覚えておきたいシニアマーケット基礎数字(2)
~生活のゆとりは増えても、健康が不安~

今月は高齢者全体について、統計値から基礎的な事項を紹介する。

<調査概要>

・厚生労働省「平成22年国民生活基礎調査」
調査対象:5,510単位区内の世帯約29万世帯及び世帯員約75万人
調査方法:調査員による配布・回収
調査期間:平成22年6~7月

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1.高齢者がいる世帯は、単独、または、夫婦のみで過半数

65歳以上の人がいる世帯をみてみると、「夫婦のみの世帯」が約37%である一方、「配偶者のいない子と同居」や「子夫婦と同居」など、子との同居も約42%ある。また「単独世帯」は17%であり、「夫婦のみの世帯」と合わせると、子供世代と同居していない人が少なくとも過半数に達していることが分かる。

図表1 65歳以上の者がいる世帯の世帯構造別割合(%)

65歳以上の者がいる世帯の世帯構造別割合

出所)厚生労働省「平成22年国民生活基礎調査」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
「夫婦のみの世帯」は、夫婦の両方または一方が65歳以上の世帯

2.高齢者の生活は、年金と貯蓄で比較的苦しさが緩和

仕事の有無をみてみると、仕事がない人は15歳以上全体(以下、全体)で41%であるのに対して、65歳以上の男性は68%、女性は約84%と高くなっている。仕事がある人の中でも、正規は全体では37%であるのに対して、65歳以上では男女とも10%以下と低く、非正規の割合のほうが高い。

そのため、1世帯当たりの平均所得金額の構成は、全世帯では稼働所得が74%であるのに対し、高齢者世帯では稼働所得は17%にとどまり、公的年金や恩給が70%と大半を占めている。一方、1世帯当たりの平均貯蓄額は、全世帯の1,079万円に対し、高齢者世帯は1,207万円と高く、500万円以上の貯蓄割合がやや高い傾向にある。

それらの影響もあって、生活意識については、「大変苦しい」と「苦しい」を合わせた割合は、全世帯の59%に対し高齢者世帯は52%とやや低く、児童のいる世帯や母子世帯ほどは経済的な困窮を感じている人の割合が少ない。

図表2 15歳以上の者の仕事の有無の構成割合(%)

15歳以上の者の仕事の有無の構成割合

出所)厚生労働省「平成22年国民生活基礎調査」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
「仕事あり」は役員以外の雇用者

図表3 1世帯当たりの平均所得金額の構成割合(%)

1世帯当たりの平均所得金額の構成割合

出所)厚生労働省「平成22年国民生活基礎調査」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
高齢者世帯とは、65歳以上の者のみで構成するか、又はこれに18歳未満の未婚の者が加わった世帯

図表4 1世帯当たりの貯蓄状況(%)

1世帯当たりの貯蓄状況

出所)厚生労働省「平成22年国民生活基礎調査」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

図表5 世帯別の生活意識(%)

世帯別の生活意識

出所)厚生労働省「平成22年国民生活基礎調査」

3.高齢者の悩みは、自分と家族の健康

病気やけが等で体の具合の悪いところを自覚している人(有訴者)の人口千人に対する割合は、男女とも年齢とともに高くなり、男性より女性のほうがさらに高い傾向がある。通院者の傾向も同様である。

有訴者の症状をみてみると、男女ともに、65歳以上、75歳以上では「腰痛」が最も高く、数値も非常に高い。男性は、全体の上位である「肩こり」、「鼻がつまる・鼻汁が出る」、「せきやたんが出る」、「手足の関節が痛む」が、65歳以上、75歳以上ともに高い。さらに65歳以上の特徴としては、「頻尿(尿の出る回数が多い)」、「きこえにくい」、「目のかすみ」、「もの忘れする」などが上位に上がっており、特に75歳以上では数値が高くなる傾向にある。女性は、全体の上位である「肩こり」、「手足の関節が痛む」は、65歳以上、75歳以上でも高い。さらに65歳以上の特徴として、「目のかすみ」、「もの忘れする」、「手足の動きが悪い」が高くなっている。男女とも、65歳以上では身体機能の低下が顕著になっていることが分かる。

通院者の傷病は、男女ともに、全体、65歳以上、75歳以上すべてで「高血圧」がもっとも高い。65歳以上の特徴としては、男性は「眼の病気」、「前立腺肥大症」が高くなり、女性は、「眼の病気」、「骨粗しょう症」が高くなっている。また男女の差をみると、男性は「糖尿病」、女性は「骨粗しょう症」、「関節症」が高くなる傾向にある。

悩みやストレスの状況をみてみると、男女とも、65歳以上、75歳以上で「自分の病気や介護」、「家族の病気や介護」が非常に高くなっている。「収入・家計・借金等」も上位にあがっているが、全体と比べると年齢とともに低くなっている。また男女とも、「家族との人間関係」、「生きがいに関すること」は65歳以上、75歳以上でも全体と同程度の数値となっている。

図表6 有訴者率(人口千対)

有訴者率

図表7 通院者率(人口千対)

通院者率

出所)厚生労働省「平成22年国民生活基礎調査」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

図表8 有訴者の症状(人口千対)

  • 【男性】
  • 【女性】
  • 【男性】
  • 【女性】

出所)厚生労働省「平成22年国民生活基礎調査」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

図表9 通院者の傷病(人口千対)

  • 【男性】
  • 【女性】
  • 【男性】
  • 【女性】

出所)厚生労働省「平成22年国民生活基礎調査」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

図表10 悩みやストレスの状況(%)

  • 【男性】
  • 【女性】

出所)厚生労働省「平成22年国民生活基礎調査」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

まとめ

  • 改めて統計から高齢者の世帯構造、経済状態、健康状態を俯瞰してみたが、皆さんの予想を大きく違える結果はなかったかもしれない。過半数が単独か夫婦のみで生活しており、仕送り等の割合も多くないことから、経済的に自立しており、生活意識を見ると、むしろ高齢者のいる世帯の方がゆとりが感じられる。ただし、健康状態となると、体力や感覚器の衰えに起因する症状を訴えたり慢性疾患を抱える人が他世代より顕著に増加し、悩みとしても自身や家族の健康問題が最上位となる。
  • ところで、少子化、晩婚化に伴う核家族化は平成に入ってからも進行しており、例えば、単独または夫婦のみの高齢者世帯はこの20年間でなんと5割以上増加している。今後も単独や夫婦のみで暮らす高齢者の数は増加していくものと考えられる。そうなると、年金の減額や子への支援などの問題はあるものの、経済的な問題より、健康不安を抱える人が増えることになり、疾病や介護の予防・症状緩和・治療・リハビリ・生活サポート等への需要はますます増大する。言わずもがなであるが、そうしたビジネスによって高齢者が活動できる範囲が広がれば、レジャーや趣味活動等の消費も拡大することになる。

編集人:井村 編集責任者:瀬川
編集協力:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社