新ビジネスの種

2012年6月19日

成長が見込まれる医療機器産業
~ニーズは増大する一方、医療費は低減傾向~

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1.国内医療機器市場は約2.3兆円規模

2010年の国内医療機器市場(=国内生産額+輸入額-輸出額)は約2兆3,155億円となっており、1996年の約1.2倍の規模に成長している。大分類※別にみると、「処置用機器」(5,744億円)、「生体機能補助・代行機器」(5,133億円)が多く、これらの治療用機器で全体の金額の約1/2を占める。次いで、「生体現象計測・監視システム」、「画像診断システム」、「眼科用品及び関連製品」が2,000億円前後、「歯科材料」、「治療用又は手術用機器」、「家庭用医療機器」が1,200億円前後となっている。

一方、平成17~22年の間の増加率を見ると、「生体現象計測・監視システム」が約44%増、「処置用機器」約38%増等が上位となっている。国内市場全体としては増加傾向にある。大分類別にみると、「画像診断システム」、「医用検体検査機器」、「家庭用医療機器」は減少しているものの、「処置用機器」、「生体現象計測・監視システム」の伸びが大きく、全体を底上げしている。

なお、全体では国内生産額が約6割と、輸入額の約4割を上回るが、「生体機能補助・代行機器」、「眼科用及び関連機器」「治療用又は手術用機器」「鋼製器具」等の機器では、輸入が国内生産を上回っている。

※「薬事工業生産動態統計年報」における分類
大分類 小分類
処置用機器 医薬品注入器、採血・輸血用器具、輸液用器具、滅菌済み注射針、滅菌済み血管用チューブ及びカテーテル、滅菌済み手術用不織布製品、他
生体機能補助・代行機器 透析器、人工腎臓装置、人工関節、人工骨及び関連用品、ステント、他
生体現象計測・監視システム 電子内視鏡、内視鏡用医用電気機器、眼撮影装置、軟性ファイバースコープ、内視鏡用非能動処置具、視覚機能検査用機器、他
画像診断システム 全身用X線CT装置、汎用超音波画像診断装置、X線透視撮影装置、他
眼科用品及び関連製品 その他のコンタクトレンズ、その他の視力補正用眼鏡レンズ、他
歯科材料 歯科用金銀パラジウム合金、歯科充填用材料、他
治療用又は手術用機器 マッサージ器、光線治療器及び関連機器、低周波治療器及び関連機器、他
家庭用医療機器 家庭用マッサージ器、家庭用磁気治療器、家庭用電気治療器、他
画像診断用X線関連装置及び用具 医用写真フィルム、造影剤注入装置、歯科用写真フィルム、X線防護前掛、X線防護つい立て、患者固定具、他
医用検体検査機器 臨床化学自動分析装置、血球計数装置、免疫反応測定装置、他
歯科用機器 歯科用ユニット、歯科用鋼製器具、歯科用電気診断用機器、他
鋼製器具 刀、ピンセット、鉗子、骨接合用及び骨手術用器具、開創器、他
施設用機器 医科用手術台及び診療台、減菌器及び消毒器、医療用照明器、他
衛生材料及び衛生用品 手術用手袋及び指サック、医用不職布ガーゼ、避妊用具、他

図表1 医療機器大分類別の国内市場規模(H22年、億円)

医療機器大分類別の国内市場規模(H22年、億円)

出所)厚生労働省「平成22年薬事工業生産動態統計年報」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

注)国内市場規模=国内生産額+輸入額-輸出額

図表2 医療機器の国内市場規模(億円)と対前年伸び率の推移(%)(H22年)

医療機器の国内市場規模(億円)と対前年伸び率の推移(%)(H22年)

出所)厚生労働省「平成22年薬事工業生産動態統計年報」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

注)・国内市場規模=国内生産額+輸入額-輸出額
・平成16年以前は内訳値が算出できないため、総額のみ算出

2.現場が望む新たな医療機器

医療現場における新たな機器に対するニーズが具体的に挙げられている例を紹介する。

【医療現場で望まれている医療機器・用具の例】

  • 排泄物の臭いを防ぐバイオ技術
  • 国産人工呼吸器(←輸入品が多く、メンテナンスが容易ではなく、急な需要に対応できない等)
  • カニューレ吸引作業の自動化(←カニューレ吸引は一定時間ごとに必要な上、感染防止等のため処置が煩雑で、人手がかかる等)
  • 革新的な筋力の補助技術(←筋力が落ちた部分を局所的に補助することが必要等)    /等

出所)独立行政法人産業技術総合研究所関西センター「近畿地域における革新的な医療福祉機器開発に関する調査研究」より抜粋

また、三重県では、医療従事者のアイデアや困りごとの解決を目的に、現場でのニーズ調査の結果を、内容を精査した上で、ホームページにて公開し、開発企業を募集している。同ホームページに掲載された医療福祉機器に対するニーズ例としては下記のようなものが挙げられている。

【医療従事者の医療福祉機器ニーズ例】

  • はがし易い医療用テープの開発
  • 微量点滴用クレンメの開発
  • 中心静脈カテーテル固定用テープの開発
  • 効率的な空気の流れを起こす新型麻酔用マスク酸素吸入マスクの開発
  • 手術時の形状記憶枕
  • 新型心電計の開発
  • 脱着容易なネームプレートの開発
  • リハビリ用具のレンタル事業
  • 座面サイズ(奥行き及び横幅)が調節できる車椅子
  • アームスリング作製キット
  • 嚥下障害対応介助スプーン
  • ウロバッグを収納できる車椅子
  • 箸先が交換できる自助箸
  • 柄の長さが調節出来るボタンエイド
  • 洗身用タオル
  • ベッドに固定できる快適なラバーシーツ
  • パンクレス車椅子
  • 医療機器等移動用無振動台車
  • 自宅ベッドに着脱できる、起き上がり補助装置
  • 着脱できる立ち上がり補助機能付き車椅子
  • 座位姿勢保持クッション
  • 伏臥位姿勢保持クッション
  • 人工股関節全置換術後患者用靴
  • ベッド用ランチプレート
  • トイレでの立位保持用補助具
  • 握力が弱くなった方が使えるかぎ針
  • 握力が弱くなった方が使える生け花用はさみ
  • ベッドサイド医療機器の伸縮・収納型コード
  • 新型女性用採尿器
  • 多機能型新ナーシングカート
  • 遮光チューブ
  • 体外式ペースメーカー用ケース、またはベッド固定用アクセサリ
  • 複数の錠剤を一括で分割する機器
  • 簡易錠剤粉砕機
  • 1包化薬剤監査装置
  • 日記型お薬手帳
  • お薬手帳を普及させるためのICカード
  • 高さ調節機能付き分包機
  • 散薬が付着しにくい分包ホッパー
  • 上下両開き散剤装置瓶
  • 洗い易い軟膏板
  • 新型軟膏板
  • 分注が簡単な薬液瓶用新型キャップ
  • 採血ポイントセンサーの開発
  • 新型ポータブルトイレ
  • ヒートシートの錠剤を一括でバラす装置
  • 使用期限読み取りスキャナー付き小型プリンタ-

出所)三重県健康福祉部薬務感染症対策課メディカルバレー推進グループのホームページより

なお、既存機器に対する改善点として一般に言われるところを挙げると、、使用頻度の高いものでは、持ち運びのしにくさ(大きさ、重さ等)、操作の手間・面倒さ(装着に手間や時間がかかる等)、性能や測定誤差等があるようだ。また、大型の画像診断機器については、価格やサイズの大きさの他、X線を用いるレントゲン撮影装置やCT等に関しては被曝、MRIについては検査時間等も指摘されるところである。

まとめ

  • 医療機器市場は近年横ばいが続いた時期があるものの、高齢化の進展に伴う疾病の増加や在宅医療、予防・健康増進へのニーズの高まりが見込まれる中、数少ない成長市場のうちの1つであると考えられる(市場規模が2.3兆円というと、化粧品やブライダルと概ね近い大きさということになる)。国でも、医療機器産業を含む医療関連産業は、今後の成長が期待される産業分野として位置付けている(2010年6月18日閣議決定「新成長戦略~『元気な日本』復活のシナリオ~」等)。
  • しかし、医療機器産業ならではの製品開発上の課題もある。薬事法への対応はもちろん、医療従事者との接点を持たない企業が大半であるため、現場のニーズを掴み難い点や、利用者の体調や機能が低下していることが多い上、命や健康に直結する機能もあることから不具合が生じた場合のリスクの予測や対応が困難であるといった点等である。
  • また、機器によっては依然として輸入品が多く、価格の低減や急な需要への対応、安全性の一層の向上等を考えると、国産品の普及が望まれている。
  • ところで、医療機器へのニーズは、治療や検査のみならず、QOLの向上や健康増進、リハビリ等多様な段階・プロセスにわたる。また、既存商品に関しては、使い勝手の向上、小型化・軽量化、安全性向上を求める声も多い。例えば、患者負担軽減の観点から低侵襲、非侵襲の機器の重要性は従来から指摘されてきたが、昨今では、より多様な健康被害について患者の関心が高まっている。具体的な例を挙げると、CT検査時における被爆を懸念する人が増加しているといわれ、実際の健康被害の有無や程度にかかわらず、集患等の観点からより低用量の機器を導入する医療機関も増えると考えられる。資金や人材等が不十分な場合、低リスクの機器や、自社が保有する要素技術を生かした既存製品の改良に参入する方法もある。
  • 今後の医療機器市場の方向性を考える上で欠かせない要素が医療行政の方向性である。そのうち、最も大きなものは、医療費低減等の流れであろう。わが国の医療の原資が医療保険でほぼ賄われている現状から、投薬や検査等に係る診療報酬の変化が医療機関の収入、ひいては医療機器市場に大きく影響するが、近年は引き下げの傾向にあり、今後も医療費低減の観点からその傾向は続くと予想される。医療機関の経営状況は厳しい状況が続いており、今後は一層、価格選好性の高まりや、競争の激化等が考えられる。
  • また、価格以外にも、医療機器の購入を左右する要因が存在する。例えば、医療現場では、医療機器メーカーに対して、価格が不透明である、臨床試験が遅い、購入後のトレーニング・サポート体制が不足しているといった不満もあるようだ。これらにも対応することで競争力を強化していきたい。

編集人:井村 編集責任者:瀬川
編集協力:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社