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2012年8月22日

普及が期待される介護ロボット
~介護施設における介護テクノロジー導入は手探り状態~

先日、一部の新聞に『介護ロボ、保険対象に 利用料9割補助』と報じられるなど、介護ロボットの実用化や普及がいっそう現実味を帯びてきた。海外の介護現場でも日本同様の課題に直面しているところは多く、労働力不足の解消や介護職の負担軽減、さらには介護の効率化や社会的コスト低減等の目的で、デンマークやドイツなど施設・在宅などへのロボットの導入に積極的な国が現れている。この様な状況もふまえ、経済産業省およびNEDOにおいても、介護ロボット市場は2035年に4,000億円規模まで拡大すると予測されている。
一方、介護ロボットを受入れる側として、今後の普及の鍵と考えられる、介護施設はどの様な意識を持っているのだろう。今月は施設における介護ロボット導入意向等について紹介する。

※本文における介護ロボットとは、義肢・装具、リハビリ支援、移動・移乗支援、日常生活支援(排泄、食事、入浴、物体操作など)、コミュニケーション(メンタルケアや見守りに活用)等の機能を有するもの

<調査概要>
  • 調査出所:厚生労働省「福祉用具・介護ロボット実用化支援事業事業報告書」平成24年3月
  • 調査対象:以下800施設における施設管理者、有効回収数114(14.3%)

    全国の介護老人福祉施設、介護老人保健施設(WAMNET登録事業所)から無作為抽出
    全国のリハビリテーションセンター 47施設
    テクノエイド協会が福祉用具のモニター協力施設として登録している42 施設

  • 調査方法:郵送アンケート調査
  • 調査時期:平成24年2月下旬~3月下旬

※記事をご覧いただく場合は「詳しく見る▼」ボタンをクリックしてください。

調査内容

過去3年以内に「新たな機能」の付いた福祉・介護機器を導入した施設は1割台にとどまり、大半の施設は「新たな機能」の付いた福祉・介護機器を導入していない。

図表1 「新たな機能」の付いた福祉・介護機器の導入

「新たな機能」の付いた福祉・介護機器の導入

「新たな機能」の付いた福祉・介護機器として導入されたものは、車いす・移動支援機器、特殊寝台、床ずれ防止用具、徘徊感知器・見守りセンサー、移動用リフトなど少数にとどまった。しかも、いずれも1~7台となっている。

図表2 「新たな機能」の付いた福祉・介護機器導入の内訳

「新たな機能」の付いた福祉・介護機器導入の内訳

それらの機器を導入した目的をきいてみると、「介護職員の介護負担の軽減」が6割以上(63.2%)を占めた。一方、「自立支援の促進など入所者へのサービスの向上(26.2%)」や「施設の職員の意識改革(21.1%)」などは3割以下にとどまった。

図表3 導入した目的

導入した目的

導入の際に最も重視した判断材料をきいたところ、「施設の従業員の反応」が52.8%と最も多く、次いで「導入費用、メンテナンス費用(47.4%)」となっている。一方、「他の施設での実績や評判」は5.3%にとどまっている。施設間での情報共有はそれほど頻繁でないと考えられる。

図表4 導入の際に最も重視した判断材料

導入の際に最も重視した判断材料

施設内で行っている業務について、苦慮している・改善したいなど要望の多かった点は「移乗に関する介護負担の軽減」(64.9%)、「入浴に関する介護負担の軽減」(53.5%)、「認知症ケアの負担の軽減や質の向上」(47.4%)、「入所者のADLの維持、向上」(43.0%)、「入所者の生活意欲の維持、向上」(42.1%)、「排泄に関する介護負担の軽減」(42.1%)などである。施設の介護職員は腰痛の悩みをもつケースが多いが、その傾向が如実に現れている。

図表5 施設業務の改善要望点

施設業務の改善要望点

課題を解決する為の条件についてきいたところ、全ての選択肢への回答が半数以上となった。中でも「メンテナンスなどで想定外の手間、人手がかからないこと」(79.8%)、「施設職員の負担が増大しないこと」(70.2%)が7割以上に達する一方、「導入費用が一定水準を超えないこと」は53.5%であった。施設では、費用もさることながら、労力がより問題視されていることが窺える。

図表6 解決のための必須条件

解決のための必須条件

「介護ロボット」導入についてきいたところ、「適切なものがあれば導入を検討したい」が3割以上で最も多かった。一方、「導入したいが高価すぎて無理」(15.8%)、「導入したいが、現場で利用できるような有用な介護ロボットがない」(14.0%)、「人の手によるぬくもりのあるサービスを理念としており、介護ロボット導入は反対」(12.3%)との回答は10%代にとどまった。

図表7 介護ロボット導入についての考え方

介護ロボット導入についての考え方

介護ロボットを現在の介護現場に導入する想定での評価をきいたところ、「現場は介護ロボットに関する認知がなく評価できる状況ではない」(50%)が最も多く、次いで「導入により介護負担が軽減されることへの期待はある」(43.9%)となっている。その他の、「現場職員の理解が得られない」「ロボットの導入はメリットがない」「現場職員の能力的にも難しい」などはいずれも1割程度にとどまっている。

図表8 介護現場にあてはめた評価

介護現場にあてはめた評価

予想される「介護ロボット」についての施設利用者やその家族における評価についてきいたところ、「介護ロボットに関する知識がなく、評価は得られない」(38.5%)が最も多く、次いで「人手による介護が望まれており、機械による介護は理解が得られない」(31.6%)、「公的な機関での評価結果があれば、理解は得られる」(30.7%)となっている。
通常、施設内のサービス変更等を行う場合、施設利用者やその家族からの反応は施設関係者にとって非常に気になる部分ではある。しかし、介護ロボットなど最新テクノロジーについては、情報格差が著しいことから利用者や家族へ説明が難しく、イメージも持ってもらい難い、つまり、現段階では施設側も利用者や家族からどのような反応が返ってくるのか想定しきれないことが窺える。また、図表4のように導入の際の判断材料としても、利用者や家族からの反応は施設職員のそれほどには重視されていない。

図表9 利用者、家族等の評価

利用者、家族等の評価

まとめ

  • 全体から見えてくる傾向としては、施設において介護ロボットはまだまだ未知の存在であり、どの様なものなのか、また、どの様に作業手順に組み込めるのか、どこまで負荷が軽減されるのかなど、具体的にイメージされていない点である。資料を見てもらっての回答はある程度想像が含まれるのは仕方の無いことであり、実際に現物を導入する段になれば、今回ご紹介した調査結果も傾向が変わってくる可能性がある。
  • 図表1等だけをみると、施設は新たな機器の導入にそれほど意欲的でないように感じられる。実際には、情報不足であり、介護職員の職員の負担軽減のための大きな切り札となりえるという認識が不足している。
  • 介護施設は、常に介護職員の高い離職率に悩んでいる。離職率が高いということは、サービスレベルの低下や採用コスト増につながる。離職の原因は、賃金の問題もあるが、体力的・精神的な負担が大きい、賃金に見合っていないという点が大きい。本文中で指摘した腰痛などにより働けなくなる職員もいる。今回の調査でも、一貫して、導入費用増より介護負担の軽減が重視される傾向がみられた。
  • 一方で、介護ロボット導入による介護負担の増大も懸念されている。本末転倒ではあるが、操作手順等が煩雑であったり、作業手順への組み込み方等が適切で無い場合、その可能性も否定しきれない。また、施設利用者の安全性の確保が保証されることも重要である。それらのリスクへの警戒から、モニターとして協力する施設が国内では見つけ難い状況となっている。
  • なお、今回は在宅での介護ロボットの活用は触れていないが、市場拡大のストーリーとしては、在宅の前に、施設での活用が進むことで介護等専門職からの意見がフィードバックされ、製品の質が向上するとともに、ケアマネージャーなど在宅でのキーパーソンにも認知されると考えられ、在宅にも浸透していくと考えられる(施設でのプロユース→在宅での介護職員によるプロユース→在宅での被介護者本人によるセルフユース等)。
  • 翻って、冒頭でもふれたように、介護ニーズは高齢化が進展する国々において共通のものであり、日本の技術力を活かした海外での事業展開が期待される。既に、一部の日本企業は、デンマークのオーデンセ市やオーフス市などにおいて連携しながら介護ロボットの開発にのりだしている他、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では介護を含む生活支援ロボットの、日本企業によるドイツ国内での実証実験の公募も開始している( 「環境・医療分野の国際研究開発・実証プロジェクト/生活支援システムの国際研究開発・実証事業/ドイツ」 )など、海外市場を見据えた動きが活発化している。自治体においても、介護ロボットに係る国内企業の研究連携や海外事業展開を戦略的にサポートする施策を打ち出すところが現れている。大阪市ではデンマーク王国と医療・福祉分野を含むロボット技術全般に関する貿易・投資、技術提携・情報交換の促進に係る経済交流促進に関する協定を結んでおり、その外郭団体である公益財団法人大阪市都市型産業振興センター内の新産業創造推進室(旧ロボットラボラトリー)では2010年から「国際ネットワーク形成事業」を開始し、2011年2月、デンマーク第2の都市オーフス市で開催された「CareWare2011」にRT関連企業4社(1社は製品展示のみ実施)の参加を2012年にも4社の参加をコーディネートしている。
  • 国内外における介護ロボット関連市場は、今後、形成が進む将来性の高い市場である。介護保険の給付対象となるか否か、また、その時期などは今後の状況を見守る必要があるが、いずれにしても、ロボット産業はわが国の産業振興施策における柱の1つとなっており、行政による様々な支援も追い風となって、今後、一層の拡大が期待される。

編集人:井村 編集責任者:瀬川
編集協力:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社