新ビジネスの種

2012年10月16日

日系企業の中国進出が相次ぐシルバービジネス

先月紹介したように中国では高齢化の進展に伴って、介護や高齢者向け消費財等の市場が立ち上がりつつある。それに対して、一足先に高齢化が進んだ日本では、国内で培った事業ノウハウをもつ企業がチャンスとみて中国市場への参入を始めている。今月は先月に引き続き中国の高齢者市場について紹介する。

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1.シルバービジネスの種類

ここでシルバービジネスの範囲と種類について再確認したい。高齢者向けビジネスは何も介護関連だけではない。広義では、心身の自立度の低下の予防をサポートするビジネスの他、一般消費者向けビジネスであっても、高齢者が時間的・空間的・文化的・技術的に利用しやすいように配慮したもの全てが含まれる。ただし、メインターゲットを高齢者に設定したとしてもわざわざ“高齢者向けの”訴求をしては「まだまだ現役、高齢者用なんて自分には関係ない」と敬遠するシニア層には受け入れられない。

以下に日本等で顕在化している主なシルバービジネスの分類と例を示す。なお、より具体的にイメージしやすいように主な対象者とカテゴリーをリンクさせているが、各事業のターゲットは必ずしも下記分類に関わらない点にご留意頂きたい。

図表1 主なシルバービジネスの分類と例

主な対象 カテゴリー 事業例
元気な※1高齢者 生きがい関連※2
  • 旅行
  • 生涯教育・教養・娯楽(ファッション、音楽、外食、雑誌等)
  • スポーツ
アンチエイジング、健康増進 抗加齢・疾病予防・要介護予防等を目的とした
  • フィットネス、機能訓練
  • 食養生、機能性食品
  • セラピー(ゲーム、コミュニケーションロボット等含む)
  • 健康機器、検査、健康指導
  • 健康をキーワードとした旅行・住宅等
バリアフリー/ユニバーサルデザイン 食品、家電、など生活用品
生活基盤整備
  • 高齢者配慮型住宅、ケア付住宅等の建設・住宅改造
  • 高齢社会対応型まちづくり、リタイヤメント・ビレッジ
  • 見守り、緊急通報サービス
要介護者 在宅サービス
  • 在宅介護サービス、ホームヘルプサービス
  • ショートステイ、デイサービス
  • 入浴サービス
  • 食事宅配関連サービス
  • 移送サービス
福祉用具の製造、販売、レンタル
  • モニタリング、環境制御
  • 移動・移乗・移送、食事、入浴、排泄を支援する用具
施設サービス
  • 有料老人ホーム※3
  • その他の老人ホーム
心身の状況にかかわらないもの 金融サービス
  • 民間介護費用保険
  • 個人年金
  • 高齢者向け不動産担保型融資

※1:(慢性疾患があったとしても)心身が自立した状態

※2:要介護者においても生きがいは重要な要素であるが、現段階ではビジネスが顕在化していないので元気な高齢者対象としている。

※3:要介護状態となる前から入居する場合も多く、対象は要介護とは限らない。

出所)三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

2.中国のシルバービジネス市場は今後60兆円規模に

前月でも紹介したように、中国では、深刻な介護不足が起きつつある。急速な高齢化が進む一方、核家族化や出稼ぎ等によって家庭内介護力が低下しており、さらには、社会保障制度もまだまだ整備されておらず、公的サービスの供給も追いついていない。もちろん、富裕層向けの高付加価値サービスも十分ではない。

中国高齢者の消費需要は2010年には1兆元(12.4兆円、2012年10月現在のレートで換算)を超え、2050年前後には5兆元(62兆円)に達するといわれる(中国高齢者協会)。別のデータでは、介護関連ビジネスに医薬や生命保険、観光、レジャー等を含めたシニアビジネス全体の市場規模は2005年で4,000億元(約6兆円)、2010年に1兆4,000億元(約21兆円)、2020年には4兆3,000億元(約64兆円)に達するとされている(2005年値:中国老齢事業発展基金会長李宝庫、2010年・2020年推計値:中国全国高齢者事業委員会弁公室(2007.1))。

これだけでもかなり大きな市場規模であるが、高齢者数の規模では中国の4分の1である日本国内の60歳以上の消費支出でさえ2011年に100兆円に達したともいわれている。推計範囲が同じとは限らないので単純に比較することは難しいが、中国のシルバー市場における今後の“伸びしろ”がいかに大きいかが推測される。

中国でも既に、図表1で示したビジネスのうち大半が、沿岸部の都市部を中心に展開されている。近年、外資にも市場が開放され、土地等の購入の際は価格や税金の優遇が受けられたり、施設の水道・電気・通信等の料金が割引されるようになったことから日系だけでなく、欧米からも参入が進んでいる。介護だけでなく、高齢者向けの健康食品(中国では保健食品)、健康機器、高齢者向けのファッション、医療、高齢者向けの住宅等の市場が形成され、拡大しつつある。中でも、有料老人ホーム、特別養護老人ホーム、シルバーハウジング等のケア付住宅などへのニーズが拡大しているという。ただし、施設設置は膨大な費用がかかるため、中国政府としては在宅中心の介護を進める方針であることから、介護事業のノウハウが培われていった後には、ホームヘルプや通所サービス(日本のデイサービス、ショートステイ等)など在宅介護市場もより拡大することが考えられる。

また、シルバー向けビジネスを何もBtoCに限定することははい。中国の介護市場は黎明期である分野も多く、介護・経営ノウハウもそれらを保有する専門人材も洗練された福祉用具等も不足している。中国の公的介護サービス向けに介護職の養成・教育事業や福祉用具等の提供という部分も大きなビジネスチャンスがあると考えられる。富裕層向けビジネスに付随する部分だけでなく、中国の公的サービスのサポート(研修等)事業も考えられる。

3.中国のシルバービジネス市場への参入が増加する日系企業

以上のような背景から、シルバービジネスのノウハウを持つ日系企業が次々と中国への参入を始めている。事業内容は富裕層向けの有料老人ホームや福祉用具販売が多く、訪問介護や通所介護が続く。以下にその1部を紹介する。

《日系シルバーサービス企業の中国参入例》

  • ロングライフホールディング・・・2011年に山東省青島市に有料老人ホーム「新華錦・長楽国際有料老人ホーム」を開設。同施設は27階建てで居室は161室。ホーム内にはプールもあり、入居者専用の病院も併設。なお、同社は訪問介護、通所介護のサービス提供も検討中。
  • ウイズネット・・・2011年8月より大連での訪問介護サービスの試験提供を開始。2012年3月より同じく大連で通所介護サービスの提供開始。同年6月より大連で有料老人ホームをオープン。
  • ニチイケアネット・・・日医福利器具貿易(上海)有限公司を設立、2012年3月より福祉用具販売事業開始。
  • セントスタッフ・・・中国の介護事業者向けの教育事業に参入。2012年秋に中国政府が山東省に開設予定の有老ホームに社員を5人程度派遣し、現地で介助手法や接遇マナーなどのノウハウを伝授する。北京の事業者と協業で中国国内での介護人材の派遣事業や、教育事業を足がかりとした有老ホームやグループホーム等の運営も検討。
  • フランスベッド・・・江蘇省南通市に、医療・介護用ベッド、福祉用具の製造・販売などを行う合弁会社を設立。今後、中国での医療・介護サービス市場に本格的に参入する。
  • セコム医療システム・・・上海に高級有料老人ホームを建設、中国企業と共同運営する予定。2015年の運営開始。
  • ワタミ・・・2013年度内に上海に進出する方針。中国において、介護付き有料老人ホームを建設・運営する計画

まとめ

  • 中国では、様々な商品・サービスが沿岸部の都市部で富裕層を中心に市場が拡大しつつあるが、その都市部でさえ、家族による介護がまだ一定の部分を占めており、介護の社会化がほぼ達成されたとはいえない。目立つのは、ケア付住宅等の施設系サービスが急ピッチで整備されていっており、その建設・運営等の事業が拡大していることである。また、日本国内と比較すると、シルバービジネスの商品・サービスの種類、施設収容人数、介護職*1のサービスの質・量、福祉用具*2等の商品の質等の点でまだまだ発展途上段階である。保健食品(健康食品)市場では高齢者向けのものが存在感を高めているが、福祉用具の認知度や利用はそこまで高まってはいない。

    ※1:中国の介護職の資格には「家政服務員(ホームヘルパー)」というものがあるが、取得者数はわずか2万人といわれる(中国民生部社会福利・慈善事業促進司の王振耀司長)。また、介護職全体の教育水準は低く、上海では、学歴が小学校卒業以下の者の割合が6割以上、非識字者も1割以上という報告もある。なお、介護職員は1,000万人以上必要といわれる中、2008年の高齢者介護施設の介護職員は20万人程度とされ、量的にも著しく不足している。

    ※2:中国で流通する高齢者向け用品は下記6分野という(公益財団法人大阪産業振興機構大阪プロモーションデスク)。

    1. 日常生活補助用品類(高齢者向け携帯電話、受話音量増幅器、スプーン、靴を履く補助器、伸縮式杖、老眼眼鏡、虫めがね付き爪切り、車椅子、成人用紙オムツ、移動便座、温水洗浄便座、床ずれ防止マットレス等)
    2. 認知症防止脳トレ類、高齢者向け遊具
    3. リハビリ・機能訓練用商品(足用マッサージ機、マッサージチェア、介護ベッド、バランスボール等)
    4. 健康関連商品(血糖値計、血圧計、吸い玉、鍼灸用品、治療機器等)
    5. 社会施設(バリアフリー(無障碍通路)、車椅子対応エスカレーター等)
    6. 高齢者ファッション(高齢者向け靴、服、帽子)
    これらの高齢者用品市場に対する満足度は極めて低い。高齢者用品の満足度調査の結果によると「大変満足」と「満足」を合わせた回答はわずか11%に留まる一方、「不満」は89%に達しているという(中国社会科学院食品薬品産業発展チームと監督管理研究センター)。商品の種類が少ないことも一因と考えられている。
  • 繰り返すが、中国の高齢者は、都市部の富裕層のように日系の商品・サービスを購入できる高所得の人ばかりではない。特に農村部の所得は低い。日本国内のように、ある程度均一な顧客層がそろっている状況とは異なり、中国では、地域、所得層、職歴等によってニーズも購買価格帯も好みもニーズも異なり、それぞれ違う国の消費者のようにターゲットを捉えていく必要ともいわれる。
  • また、中国の場合、特有の商慣行も参入を検討する際には十分に研究しておく必要がある。中国では、地方政府が高齢者施策の事業計画の策定や実施、財政措置等を行うため、それらに付随する業務に参入しようとすると、地方政府や党の有力者などキーパーソンと親密な関係を築いておく必要がある。現在の日本では馴染みの無い社用の贈答市場も大きい。これは、便宜を図ってもらうためにいかに“贈り物”をするかが重要な文化ということである。
  • 昨今では日中両国間における政治的な問題が経済にも多大な影響を与えているが、そのようなカントリーリスクを考慮しても中国は魅力的な市場であり、長期的に考えていきたい。

編集人:井村 編集責任者:瀬川
編集協力:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社