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2013年9月17日

社会保障制度改革『要支援は介護保険外、施設から在宅へ』
~要支援向けサービスの単価下落?~

2013年8月6日の社会保障制度改革国民会議では、介護分野においても大きな動きがあった。

要支援が介護保険から切り離されるということはかねてから予想されていたし、施設から在宅へという施策の流れは介護に限らず、医療まで含めた広い範囲で従来から打ち出されていたが、ここにきて、方向性がより明確になった。8月21日には同会議の報告書に基づく「プログラム法案」の骨子が閣議決定されており、今後は国会で関連法案が審議され、次の介護保険事業計画等とも歩調を合わせながら、同報告書に沿った施策が順次実施されていくこととなる。

本件に関しては、社会保障費の抑制や高齢者の負担増等に注目が集まりがちであるが、介護ビジネス業界においても様々な影響があると考えられる。

今月は、同報告書から制度改正による今後の介護ビジネスへの影響を検討する。

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0.社会保障制度改革国民会議 報告書(概要)

制度改革の大きな目的は、より質の高いサービスの提供と同時に、効率性を高めることで、増大する社会保障費を抑制することである。そのために、介護については、下記のような方向性が打ち出されている。

(4)医療と介護の連携と地域包括ケアシステムというネットワークの構築

  • ○「医療から介護へ」、「病院・施設から地域・在宅へ」の観点から、医療の見直しと介護の見直しは一体となって行わなければならない。
  • ○地域包括ケアシステムづくりを推進していく必要があり、平成27年度からの介護保険事業計画を「地域包括ケア計画」と位置づけ。
  • ○地域支援事業について、在宅医療・介護連携の推進、生活支援サービスの充実等を行いつつ、新たな効率的な事業として再構築。要支援者に対する介護予防給付について、市町村が地域の実情に応じ、住民主体の取組等を積極的に活用し、柔軟かつ効率的にサービスを提供できるよう、受け皿を確保しながら、段階的に新たな事業に移行。

出所)「社会保障制度改革国民会議 報告書(概要)~確かな社会保障を将来世代に伝えるための道筋~
平成25年8月6日 社会保障制度改革国民会議」より抜粋、編集

他にも、「医療法人制度・社会福祉法人制度の見直し(法人間の合併や権利の移転等を速やかに行うことができる道を開くよう制度改正)」等、興味深い点はあるが、以下では、介護ビジネスへの影響が大きいと考えられる2点を検討する。

1.要支援は介護保険外、地域包括推進事業(仮称)へ移行

同報告書には要支援について「要支援者に対する介護予防給付について、市町村が地域の実情に応じ、住民主体の取組等を積極的に活用しながら柔軟かつ効率的にサービスを提供できるよう、受け皿を確保しながら新たな地域包括推進事業(仮称)に段階的に移行させていくべきである。」と記載されている。

つまり、要支援は介護保険給付の対象外となり、市町村の事業である、新たな「地域包括推進事業(仮称)」の中で支援を行っていくことになるということである。同制度は2015年度から実施される見通しであるが、制度移行時に、既に要支援の認定を受けている人まで介護保険での給付対象外となるわけではなく、前回の制度改正同様、新規認定者から順次「地域包括推進事業(仮称)」の対象となっていく見通しである。

念のため制度を再確認すると、要支援とは、要介護区分(介護の必要性に応じた7段階の認定)のうち比較的経度の2区分(要支援1、要支援2)をさし、現在、約150万人が認定を受けている。それぞれの状態は概ね下記のようになっている。自身の食事や排泄、歩行等基本的な行動は自力でできるものの、電話、買い物、家事、移動、外出、服薬や金銭の管理等、より高次の生活機能については支援を要するということである。

【要支援1・2のめやす】

・要支援1:
日常生活の基本動作(歩行や排泄、食事摂取等)については、ほぼ自分でできるものの、手段的日常生活動作(買い物や掃除など)において何らかの支援を要する状態。(日常生活はほぼ自分で行えるが、今後、要介護状態になることを予防するため、支援が若干必要)
・要支援2:
要支援1と比較すると、手段的日常生活を行う能力がわずかに低下し、何らかの支援が必要となる状態。(日常生活に若干支援が必要だが、介護サービスを利用すれば、機能の維持・改善が見込める。)

では、要支援が移行する「新たな地域包括推進事業(仮称)」とはどのようなものであり、現状とどのような違いがあるのか

現在でも、地域包括ケアシステムが存在し、高齢者が居住する各地域において、地域包括支援センターを中心に、介護だけでなく、予防・生活支援・医療・住まいを継続的かつ包括的に提供する役割を担っている。地域包括支援センターは、要支援が対象となっている介護予防サービスの窓口であり、「介護予防ケアプラン」の作成を行っている。

これらの骨組み自体が大きく崩れることは無いものの、今後は、以前から指摘されていた医療との連携がより徹底されていく。これまでも、関係者による調整のための場は設置されていたが、「サービスの高度化につなげている地域は極めて少ない」という認識から、「医療・介護サービスの提供者が現場レベルで『顔の見える』関係を構築」し、「医療・介護サービスの提供者間、提供者と行政間など様々な関係者間で生じる連携」をマネージする担当者が必要だと提案されている。

市町村事業への移行で要支援向け介護サービス委託単価下落の可能性も、
一方で、多様な担い手、多様なサービス登場の好機にも

ドラスティックな変化が予想されるのは、介護保険下では全国ほぼ一律のサービス内容が、市町村事業となることで、サービスの内容や担い手に多様性や強弱が生まれる可能性がある。さらに、各市町村の財政状況によってサービス内容・委託単価が変わってくる点である。結果的に、財政状況が比較的良かったり、高齢者福祉を重視する自治体とそうでない自治体とで差異が生じる可能性が高い。

現行では、介護サービスの財源構成は、保険料45%、国22.5%、都道府県11.25%、市町村11.25%、利用者の自己負担10%である。それが、市町村事業ということになると、基本的には保険料等の部分が無くなることになる。介護サービスについても医療のように高所得層の利用料(自己負担)を引き上げる方向となっているが、それでも市町村の負担は大幅に増えるはずである。ましてや市町村の財政状況はそれほど楽でもない。そうなると、サービスに割くことのできる予算は限られているため、現在のサービス内容や水準を維持することは難しい可能性がある。

例えば、現在、3000円の単価で介護事業者に委託している介護サービスがあるとすると、市町村の負担はそのうちの約338円に過ぎない。利用者負担の10%を入れても638円にしかならず、残り約2400円を国や都道府県が全額補助するとは考え難い(本稿執筆時点では国の市町村への補助等支援策については不明)。ただし、約600円では受託する事業者がなかなか見つからないことが予想されるため、多少は引き上げたとしても、サービスの委託単価は大なり小なり下がると考えられる。そうなると、サービスの量や提供方法が従来のままということは考え難く、市町村は、提供対象者や頻度を絞ったり、ボランティアやNPO等も担い手として活用してコストを抑えていく必要が出てくるだろう。

また、抜本的に介護予防を推進するためには、高齢期の介護予防だけではなく、余暇活動や社会活動、就労等まで含む幅広い生きがい対策や、中年期からの運動や栄養などライフスタイル改善等も必要となるだろう。

一方、介護ビジネス参入(予定)企業としては、要支援向けサービス市場は、単価下落の可能性がある上、多様な主体が参加することで競争が一層激化することが考えられ、労働集約型産業として捉えて価格競争に巻き込まれることの無いよう、事業戦略を見直す必要が出てくる。ボランティア、NPO等に比べて高い人件費を吸収しながら質を落とさないような新商品の開発が望まれるところである。

2.「自宅から施設へ」の一層の推進、ケア付住宅※100万戸整備へ

自宅から施設への流れについては、本稿「国を挙げて進む在宅での医療・介護~「在宅医療・介護あんしん2012」から~」でも紹介したが、同報告書でも「中低所得層の高齢者が地域において安心して暮らせるようにするため、規制改革等を進めつつ、地域の実情に応じ、介護施設等はもとより、空家等の有効活用により、新たな住まいの確保を図ることも重要である。」(太字:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)と記載されている。

つまり、設置・維持により大きなコストのかかる施設より、在宅での介護を推進していくということである。ただし、ここでいう「在宅」とは高齢者の自宅とは限らず、プライバシーやライフスタイルの自由が保たれながらも、バリアフリー化され、緊急通報システム、入浴・給食サービス、介護サービス等が提供される在宅型の施設、いわば「ケア付き住宅」まで含むものである(【主なケア付き住宅】参照)。

【主なケア付き住宅】

  対象所得層 介護サービス等 国の整備目標
サービス付き
高齢者向け住宅
中所得向け バリアフリー化、安否確認・生活相談は必須、身体介護・家事援助等は施設による 60万戸
空き家を活用した
ケア付き住宅
低所得向け 具体的内容は未定※2 40万戸
介護付き
有料老人ホーム※
高所得向け ①施設が介護から家事援助も提供するタイプ、②施設は介護サービス計画の作成、安否確認や緊急時の対応等支援までで、介護サービスは外部の提携事業者が提供するタイプ等がある

注)※1:サービス付き高齢者向け住宅の登録も可能
  ※2:本事業のモデルとされている「自立支援センター ふるさとの会」では介護、家事援助、就労支援等が提供されている。

「サ高住」等の急増、介護サービスの潜在需要喚起も

これらの事業主体の多くは社会福祉法人等の民間企業であり、設置に当っては行政への申請が認められれば、補助金や税制上の優遇等がある。また、建設促進策の一環として、これら住宅に引っ越す人の介護・医療費用を転居前の自治体が負担することになる見通しである。

ここで重要なのが、特養等は老人福祉法における開設認可を受ける必要があり、各地域の需給や財政等の状況を勘案した介護保険事業計画の数値目標によっては、認可されない場合があるなど、制度上、やみくもに増えない構造となっている。一方、サービス付き高齢者向け住宅等は特にこれらの法律の対象となっていないため制約を受けず、事業主体の経営判断で設置が可能であり、前述の様々な支援策の追い風もあって、今後、急激な増加が見込まれる。

なお、サービス付き高齢者向け住宅等は、近隣や階下にデイ等の介護事業所、診療所といった機能が集積している場合が多く、事業者にとって効率が良いだけでなく、利用者にとっても便利である点からも、設置が進むと考えられる。また、その場合、これまでは、移動等が面倒だからという理由で、介護予防等のサービスを利用しなかった人の潜在需要が喚起されて、利用者が増えていくことも考えられる。

3.(参考)社会保障制度改革国民会議報告書より抜粋

第2部 社会保障4分野の改革

Ⅱ 医療・介護分野の改革
2 医療・介護サービスの提供体制改革
(4)医療と介護の連携と地域包括ケアシステムというネットワークの構築

「医療から介護へ」、「病院・施設から地域・在宅へ」という流れを本気で進めようとすれば、医療の見直しと介護の見直しは、文字どおり一体となって行わなければならない。高度急性期から在宅介護までの一連の流れにおいて、川上に位置する病床の機能分化という政策の展開は、退院患者の受入れ体制の整備という川下の政策と同時に行われるべきものであり、また、川下に位置する在宅ケアの普及という政策の展開は、急性増悪時に必須となる短期的な入院病床の確保という川上の政策と同時に行われるべきものである。

今後、認知症高齢者の数が増大するとともに、高齢の単身世帯や夫婦のみ世帯が増加していくことをも踏まえれば、地域で暮らしていくために必要な様々な生活支援サービスや住まいが、家族介護者を支援しつつ、本人の意向と生活実態に合わせて切れ目なく継続的に提供されることも必要であり、地域ごとの医療・介護・予防・生活支援・住まいの継続的で包括的なネットワーク、すなわち地域包括ケアシステムづくりを推進していくことも求められている。

この地域包括ケアシステムは、介護保険制度の枠内では完結しない。例えば、介護ニーズと医療ニーズを併せ持つ高齢者を地域で確実に支えていくためには、訪問診療、訪問口腔ケア、訪問看護、訪問リハビリテーション、訪問薬剤指導などの在宅医療が、不可欠である。自宅だけでなく、高齢者住宅に居ても、グループホームや介護施設その他どこに暮らしていても必要な医療が確実に提供されるようにしなければならず、かかりつけ医の役割が改めて重要となる。そして、医療・介護サービスが地域の中で一体的に提供されるようにするためには、医療・介護のネットワーク化が必要であり、より具体的に言えば、医療・介護サービスの提供者間、提供者と行政間など様々な関係者間で生じる連携を誰がどのようにマネージしていくかということが重要となる。確かに、地域ケア会議や医療・介護連携協議会などのネットワークづくりの場は多くの市町村や広域圏でできているが、今のところ、医療・介護サービスの提供者が現場レベルで「顔の見える」関係を構築し、サービスの高度化につなげている地域は極めて少ない。成功しているところでは、地域の医師等民間の熱意ある者がとりまとめ役、市町村等の行政がその良き協力者となってマネージしている例が見られることを指摘しておきたい。

こうした地域包括ケアシステムの構築に向けて、まずは、2015(平成27)年度からの第6期以降の介護保険事業計画を「地域包括ケア計画」と位置づけ、各種の取組を進めていくべきである。

具体的には、高齢者の地域での生活を支えるために、介護サービスについて、24時間の定期巡回・随時対応サービスや小規模多機能型サービスの普及を図るほか、各地域において、認知症高齢者に対する初期段階からの対応や生活支援サービスの充実を図ることが必要である。これと併せて、介護保険給付と地域支援事業の在り方を見直すべきである。地域支援事業については、地域包括ケアの一翼を担うにふさわしい質を備えた効率的な事業(地域包括推進事業(仮称))として再構築するとともに、要支援者に対する介護予防給付について、市町村が地域の実情に応じ、住民主体の取組等を積極的に活用しながら柔軟かつ効率的にサービスを提供できるよう、受け皿を確保しながら新たな地域包括推進事業(仮称)に段階的に移行させていくべきである。

また、地域包括ケアの実現のためには地域包括支援センターの役割が大きい。

かかりつけ医機能を担う地域医師会等の協力を得つつ、在宅医療と介護の連携を推進することも重要である。これまで取り組んできた在宅医療連携拠点事業について、地域包括推進事業として制度化し、地域包括支援センターや委託を受けた地域医師会等が業務を実施することとすべきである。

さらに、中低所得層の高齢者が地域において安心して暮らせるようにするため、規制改革等を進めつつ、地域の実情に応じ、介護施設等はもとより、空家等の有効活用により、新たな住まいの確保を図ることも重要である。

なお、地域医療ビジョン同様に、地域の介護需要のピーク時を視野に入れなが30から2025(平成37)年度までの中長期的な目標の設定を市町村に求める必要があるほか、計画策定のために地域の特徴や課題が客観的に把握できるようにデータを整理していく仕組みを整える必要がある。また、上記(1)で述べた都道府県が策定する地域医療ビジョンや医療計画は、市町村が策定する地域包括ケア計画を踏まえた内容にするなど、医療提供体制の改革と介護サービスの提供体制の改革が一体的・整合的に進むようにすべきである。

いずれにせよ、地域包括ケアシステムの確立は医療・介護サービスの一体改革によって実現するという認識が基本となる。こうした観点に立てば、将来的には、介護保険事業計画と医療計画とが、市町村と都道府県が共同して策定する一体的な「地域医療・包括ケア計画」とも言い得るほどに連携の密度を高めていくべきである。

なお、地域包括ケアシステムを支えるサービスを確保していくためには、介護職員等の人材確保が必要であり、処遇の改善やキャリアパスの確立などを進めていく必要がある。また、地域医師会等の協力を得ながら、複数の疾患を抱える高齢者が自分の健康状態をよく把握している身近な医師を受診することを促す体制を構築していくことも必要である。

出所)平成25年8月6日 社会保障制度改革国民会議「社会保障制度改革国民会議報告書 ~確かな社会保障を将来世代に伝えるための道筋~」より(下線・網掛け:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)

編集人:井村 編集責任者:前場
編集協力:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社