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2013年12月18日

要介護向け市場は現状の想定以上に拡大する?!
~進むシニアの肥満、若年層の体力低下~

科学技術などの発展に伴うライフスタイルの変化によって体を動かす機会が減少している一方、食生活の西洋化が一層進展しており、このまま抜本的かつ効果的な対策がとられない場合、今後、シニアの肥満・身体機能の低下が進むリスクがある。

限られた情報の中からではあるが、大胆に将来の介護需要について考える。

◆参考とした調査の概要
・厚生労働省「国民健康・栄養調査」
・文部科学省「体力・運動能力調査」

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1.肥満シニア男性急増中、特に70代は30年で約2.3倍

肥満(BMI≧25)について、1980年を100とした割合を2011年まで比較してみたところ、男性は、いずれの年代も2011年時点で150%~230%と著しく増加している。特に60~69歳と70歳以上は200%以上と伸びが大きい。一般に、高齢期の肥満は、運動不足や足腰の不調等が原因で活動量が減少する一方で、食べる量が若いころと変らず、結果的にカロリーオーバーとなることが、原因として挙げられることが多い。時系列でみると、日常生活の機械化が一層進み、高齢期でも和食から洋食へと食の嗜好が西洋化が進み、よりカロリーの高い食事が増えていることなどが考えられる。

一方、女性は、59歳以下では減少または、ほぼ同等傾向にある。60~69歳と70歳以上では1995年までは増加したものの、それ以降は60~69歳は減少、70歳以上は伸びが止まっている。女性の場合、食生活に気をつける傾向がある上、美容的観点から「太りたくない」と節制する人も多い。

図表1 肥満(BMI≧25)割合の時系列比較

出所)厚生労働省「国民健康・栄養調査」」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

2.若返るシニア、老ける若年層?

体力年齢※が暦年齢より低い(年の割に若い)人の割合を、性・年代別に2001年と2012年の2時点で比較したところ、2001年時点では男女とも、体力年齢が暦年齢より低い人の割合は、年代が上がるにつれて増加し、45歳以降は減少する傾向であった。しかし、2012年時点では、男女ともに、45歳以上の年代でも増加しており、高齢者でも体力的に若い人が増えている。

見方を変えると、男女とも、40代前半までは2001年が2012年を上回り、それ以降は逆となっている。

※ここでは、「新体力テスト実施要項」に基づき、握力、上体起こし、長座体前屈、反復横とび、急歩、20mシャトルラン、立ち幅とび等の各項目の測定結果を得点化し、体力年齢判定基準表から換算したもの

図表2 体力年齢<暦年齢の人の割合

出所)厚生労働省「国民健康・栄養調査」」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
体力年齢は、「新体力テスト実施要項」の得点表等による。

ここで、「1回30分以上の定期的な運動を週に2回以上、1年以上続けている人」の割合を、性別・年代別で見てみると、男女とも、他の年代に比べて60~69歳、70歳以上で高く、年々その比率も増加している。さらに女性は、50~59歳でも比較的高くなっている。高齢者の運動に対する意識の高さが伺える。上記の結果と併せて考えると、これらの運動習慣の有無が、体力に反映されているとも捉えられる。

図表3 1回30分以上の定期的な運動を週に2回以上、1年以上続けている人

<男性>

<女性>

出所)厚生労働省「国民健康・栄養調査」」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

3.シニアはADL(日常生活動作)も向上

65歳以上の日常生活動作(ADL)を2003年、2008年、2012年で比較してみた。その結果、男女とも、「休まないでどのくらい歩けるか」、「バスや電車に乗ったとき、立っていられるか」について、それぞれもっとも高い水準である「1時間以上」、「発車や停車のとき以外は何にもつかまらずに立っていられる」と回答した人が、2003年から2012年にかけて顕著に増加している。持久力や体幹バランスに関わる部分が強くなっていることが伺える。

図表4 「1時間以上休まないで歩ける」

図表5 「バスや電車で、発車や停車のとき以外は何にもつかまらずに立っていられる」

出所)文部科学省「体力・運動能力調査」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

まとめ

  • あくまで以上のデータのみから言えることではあるが、現段階ではシニアは若返っているものの、今後、体を動かす必要性が低い楽な生活に慣れ、運動習慣も乏しい年代層が徐々にシニアとなるころには、何か根本的な対策が無い限り、体力やADLが低下する可能性がある。
  • また、食生活が再び和食に戻り、便利な家電や移動手段が減ると考えることは難しく、肥満シニア男性が劇的に減少するということも考えにくい。体重が増えて筋力が衰えるということは、膝や腰への負担も増し、ロコモティブ・シンドローム(運動器症候群、筋肉、骨、関節、軟骨、椎間板など運動器の障害によって移動能力が低下して、要介護になったり、その危険が高い状態)のリスクも高まる。
  • それらを考え合わせると、長期的には、要介護状態※の人が増加する、つまり、後期高齢者人口の増大による自然増だけでなく、出現率が高まることも考えられる。そして同時に、体格の良い人が増えていくことも考えられる。
    ※「要介護認定者」の数は認定基準など政策的な要因によって変わるため、ここでは区別して用いる。その出現率は、現在14%台半ばで推移している。
  • その結果、要支援・要介護状態の人にかかる予防・介護・家事援助の市場は現在の予想を上回って拡大する可能性があると考えられ、また、体重の重い人が増えれば、介護者の腰痛予防等にかかる市場も一層存在感が増すと考えられる。

編集人:井村 編集責任者:前場
編集協力:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社