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ライフサポート展2017

2015年06月16日

「機能性表示食品」制度で健康食品市場はどうなっているのか?
~企業にとっての費用対効果は未知数で様子見~

2015年4月より「機能性表示食品制度(食品表示法)」が開始され6月12日からは、同制度に基づく商品が発売された。食品の栄養面からの表示に係る制度としては、既に、「トクホ(特定保健用食品)」や「栄養機能食品」があるが、新たな「機能性表示食品」では、企業が必要資料を揃えて事前に国(消費者庁)に届け出をすれば、食品の機能性を表示することができるものであり、「トクホ」のように国の審査が必要なわけでもなく、また、「栄養機能食品」のようにビタミン・ミネラルの含有についての記載に限定されるものでもない。さらには、同制度の適用範囲は、錠剤型のサプリメント等や加工食品だけではなく、生鮮食品(野菜・果物)、鮮魚、精肉等)まで含まれるのが特徴である。
今月は同制度の健康食品市場への影響を考える。

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1.「機能性表示食品」制度とは ~事前届け出、~

同制度は、既に施行されてから2カ月以上が経過しており、ご存知の方が多いと思われるため、以下では簡単に説明する(詳細は消費者庁HP*にてご確認いただきたい)。

*: 消費者向け 消費者庁「『機能性表示食品』って何?」
食品事業者向け 消費者庁「『機能性表示食品』制度がはじまります!」

基本的には、食品を製造・販売する事業者等が、国に、科学的根拠や健康被害の情報収集体制等を添えて届け出をすれば、パッケージ等に機能性を表示することができる。事前に必要なのは、「届け出」であり、審査等されることもないため、トクホよりはかなりハードルが下がった印象があるが、表示事項に問題がある場合、従来の食品に課される法律は変わらずに適用されるため、下記の様な罰則の対象にもなりえる。

  • 食品表示基準に基づいた表示を行っていない場合、食品表示法違反として、食品表示法の指示や命令のほか、罰則の対象となる可能性がある。
  • 科学的根拠情報の範囲を超えて表示した場合、景品表示法の不当表示、又は、健康増進法の虚偽誇大広告に該当するおそれがある。

また、届け出の為の必要書類も30種類以上にのぼり、要求されている科学的根拠も、試験管ベースや動物実験ではなく、最も高額なヒト試験であり、機能性についても、ネガティブなデータも含めて総合的に判断した査読付論文で肯定的な結果を提示する必要がある。これらの基準をクリアするための労力や費用の負担は小さくない。

ただし、ある程度、厳正な基準等が必要な事情も分かる。米国では、同制度の手本となった「栄養補助食品健康教育法(DSHEA)」を1994年から施行しているが、実質的な規制緩和のおかげでサプリメント市場が急伸した結果、有害物質を含む粗悪品が出回るようになったともいわれている。DSHEA施行=健康被害増加、とは直接的には言えないが、当初、健康被害については、FDA(食品医薬品管理局)への届け出義務も無かったため、制度を悪用あるいは拡大解釈した企業が、より体感を増すために、安全性の確立していない成分を配合したり、根拠を上回る機能性を表示した可能性がある。

「機能性表示食品」制度の特徴

  • 国の定めるルールに基づき、事業者が食品の安全性と機能性に関する科学的根拠などの必要な事項を、販売前に消費者庁長官に届け出れば、機能性を表示することができます。
  • 生鮮食品を含め、すべての食品※が対象となります。

    ※特別用途食品(特定保健用食品を含む。)、栄養機能食品、アルコールを含有する飲料や脂質、コレステロール、糖類(単糖類又は二糖類であって、糖アルコールでないものに限る。)、ナトリウムの過剰な摂取につながるものを除きます。

  • 特定保健用食品とは異なり、国が安全性と機能性の審査を行いませんので、事業者は自らの責任において、科学的根拠を基に適正な表示を行う必要があります。機能性については、臨床試験※又は研究レビュー(システマティックレビュー)によって科学的根拠を説明します。

    ※人を対象として、ある成分又は食品の摂取が健康状態などに及ぼす影響について評価する介入研究臨床試験や研究レビュー(システマティックレビュー)

  • 新制度により機能性を表示する場合、食品表示法に基づく食品表示基準や「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」などに基づいて、届出や容器包装への表示を行う必要があります。

機能性表示食品

注)タイトル、傍線:三菱UFJリサーチ&コンサルティング
本文出所)消費者庁「『機能性表示食品』制度がはじまります!」

2.需要喚起、企業の費用対効果は?

同制度に対して、当事者である食品業界、特に、健康食品業界はどのようにみているのだろうか。2015/6/10時点で受理されたのは加工食品36商品であり、一部を除くと、原料ではなく、ほぼ全て最終製品である。届け出者は認知度の比較的高い食品メーカーが多い。つまり、もともとエビデンス取得に熱心であったある程度以上の規模の企業が、根拠のそろっている原料等を使って申請したとみるのが自然であろう。一方で、中小企業では負担が大きくなかなか活用しきれていないと考えられる。また、比較的規模の大きな企業においても、費用対効果が明らかではない以上、労力をかけて、新たにエビデンスを収集・構築していくまでには至っていない。原料メーカーにしても事情は同様である。多くの企業では、拙速に動かずに、制度による売上伸長等の効果が明らかになったら、必要書類を整えたり、パッケージを刷新するなどの行動をすぐに起こせるように、現在は下準備をして様子見をしていると考えられる。

では、サプリメントを中心とする健康食品市場は、同制度によって、今後、どの程度拡大するのであろうか。「栄養補助食品健康教育法(DSHEA)」で先行する米国市場の制度開始前後の状況を参考に検討する。同制度が施行された1994年以降、ダイエタリーサプリメント(栄養補助食品)市場は年率約13~14%という高い水準で成長を続け、1999年までの5年間で約1.7倍に達している。これが、日本国内でも健康食品市場が2~3年以内に2倍に伸長する等と言われている根拠の1つである。

ただし、それ以前からも米国の同市場は伸長しており、1990年代前半で概ね10%程度は毎年増加している。また、1999年以降の伸び率は3~7%程度に留まっている。これらから、下記の様な仮説が考えられる。

  • 同制度が無くてもそもそも同市場は拡大を続けており、その影響(上乗せ分)は年3~4%程度
  • 同制度が需要を喚起するインパクトは永久ではない

これらを参考に今後の国内市場を考えると、サプリメント購入額の高い、シニア世帯が今後も増加することから、緩やかに市場は拡大することが予想され、それに同制度が開始されて需要が喚起されることで一層の拡大基調が続くとは言える。新制度が登場したことで、行政や企業等の研究予算がつきやすくなり、研究開発や基盤整備等が進むことで、結果的に市場の拡大につながることも考えられる。ただし、昨今の国内市場の伸び率は、急成長をしていた当時の米国市場の伸び率をかなり下回ることから、米国市場の状況を根拠に、今後数年間で数倍、とまで伸長する可能性はあまり高くないと考えられる。

特定健診、特定保健指導制度導入の際にも、メタボ市場が急伸すると期待されていたが、実際にふたを開けてみると、メインターゲットの中高年男性ではなく、もともと健康に関心の高かった層が新しい訴求の商品に飛びついただけで、一部の商品しか売上増の恩恵は受けなかった。

今回も、これまでサプリメントとは縁が無かった消費者が、機能性の表示がついたからと購買にすぐに結び付くとは考えにくい。サプリメントへの関心が低ければ、ネットでも店頭でも、そもそもそのような情報を目にする機会が少ないからである。
むしろ、サプリメントを好まない層が日頃から購入している生鮮食品や加工食品等の商品にそのような表示が付けば、健康への関心やリテラシーが高まったり、積極的な購買に結び付いたりする可能性は高い。低価格の輸入品との差異化ポイントの1つにもなりえる。ただし、生鮮食品の場合、成分を安定的に含むように品質を管理することは困難であり、工場で育てられた青果等に限定されるかもしれない。

トクホもトクホを取得しただけでは売上増にすぐに結びつくのではなく、CMや広告等による販促費をかけた商品は結果に結びついている。サプリメントを自ら探してまで購入する健康意識の高い層以外にアピールするには、コンビニや自動販売機等の棚といったチャネルを確保するのも重要である。

以上より、同制度によって、消費者の健康に関するリテラシーが高まる、結果的に特定の成分に関する関心や注目が高まる、既に購入を決めているカテゴリーの中から表示のある商品を選択する可能性が高まるなど、一定の効果は想定されるものの、個別商品の売上への貢献はまだまだ未知数である。企業では、ある程度、エビデンスがそろっていて、届け出の労力や費用がそれほどかからない成分については、貴重な科学的根拠を表示して訴求力を高める絶好の機会であるものの、そうでなければ、現段階では情報収集に努めておくのが賢明と考えられる。

編集人:井村 編集責任者:武坂
編集協力:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社