ヘルスケアビジネスで成功するマーケティング|新ビジネスの種

2016年7月20日

第3回 コト(話題)をつくるISSUE+ing

イシューイングからはじめよう

「この企画、会議で突然提案してもゼッタイ通らないよ! 事前に部長に根回ししておかないと」「いや~、面倒くさいな。毎回、毎回」「でも、根回しも大切な仕事だよ。根回ししておくのとしないとじゃ、結果は大違い!」。職場で、こんな会話を耳にしませんか。実は、この“根回し”こそが、今回のテーマである“イシューイング”の役回りそのものなのです。

イシューイングとは、意中の相手にその価値を気づかせるための“根回し”のこと。イシュー(ISSUE)を直訳すると「課題」「話題」となりますから、つまり、イシューイング(ISSUE+ing)は、根回しのための「課題」づくり、「話題」づくりを意味します。
ヘルスケアビジネスでは、このイシューイングがとても大事な作業になります。

健康について、私たちは価値あるものとちゃんと認識しています。でも、一つひとつの健康行動に対して、何のために? 誰のために? といった健康行動の目的化は、結構、難しいのが現状です。 巷にあふれる健康課題は、ほとんどは他人ゴトです。それをそのまま自分ゴトとして解釈できる人はまずいません。そこで、他人ゴトと自分ゴトの間に、「世の中ゴト」をつくるためのアプローチが求められます。

たとえば、こんな経験はないでしょうか。
お母さんが言いました。ある食べ物を目の前に置いて、「腸にいいから食べなさい!」。突然そんな提案をされても、訳わかりません。「なぜいま、腸を気遣わなければいけないの?」。これに応える健康行動をとるには、前もって、腸=健康課題としての意識と理解が必要になります。

腸=健康課題という世の中ゴトをつくるために、「腸は第二の脳」というPRキャンペーンがありますが、コレこそが、消費者に「腸を気遣うこと」を認知させるための“根回し”なのです。その根回しをしておいてから後に、「わが社の商品、買ってください!」と、食品会社が広告プロモーションをします。

健康課題を社会的価値として伝える

軍用ステルス機はレーダーにも映らないことから、それを文字って「ステマ」と称したステルスマーケティングが話題になりました。企業関係者がスパイのように暗躍しながら、自社の商品やサービスを褒めたり称えたりして紹介します。

その後、「ネイティブ広告」という、記事なのか広告なのかわからないような記事体広告が話題になりました。影響力を持つ人がいかにも記事で語っているかのように、商品やサービスを評価します。あまりに頻繁に出回ってしまったので、いまでは、その片隅に「広告」と表示することが業界ルールになりました。

ステマが「評判」をつくり、ネイティブ広告が「評価」をつくるという目的の違いこそあれ、どちらもイシューイングというアプローチと言っていいでしょう。問題視されたのは、商業活動だったからです。

大事なのは、イシューイングが堂々とできるかできないかです。商業活動の前に、社会活動としてイシューイングを位置づけることで、健康課題を社会的価値として伝えることができます。

ヘルスケアビジネスないしヘルスプロモーション史上、最もイシューイングに成功した例が、「メタボ」です。世の中に多く存在する「中年太り」の人に健康課題を気づかせ、健康行動に導きました。いま流行語の「ロコモ」も、世の中に増え続ける「寝たきり」予備軍に健康課題として警鐘を鳴らします。メタボも、ロコモも同様に、放置しておくと危険な人に対してイシューイングが行われています。

日本呼吸器学会が行った、喫煙者に対する「COPDって何?」のPRキャンペーンは成果が上がらずあまり浸透しませんでしたが、その反省は、その後の「肺年齢を測りましょう!」PRキャンペーンに生かされ、大成功します。そして、多くの喫煙者を禁煙に導くことができました。

このように、健康課題を社会的価値としてきちんと伝えることが、ヘルスケアビジネスには求められるわけです。商品やサービスを突然提案して、誘惑して、その人が幸せになれるかと言ったら、そうではないでしょう。その人が健康課題を話題にすることではじめて、商品やサービスの価値が伝わります。

執筆者:西根英一(株式会社ヘルスケア・ビジネスナレッジ 代表取締役社長、マッキャン・ワールドグループ 顧問、事業構想大学院大学事業構想研究所 客員教授)
編集人・編集責任者:武坂

西根英一氏

<プロフィール>
マーケティングデザイン開発とコミュニケーションデザイン設計の専門家。商品開発、サービス創造をはじめ、市場戦略、販路開拓、顧客獲得のための“精緻な設計図”を描き、広告プロモーション、戦略PRを最適化する。近著に、『生活者ニーズから発想する健康・美容ビジネス「マーケティングの基本」』(宣伝会議)。 大塚グループ、電通グループを経て、マッキャン・ワールドグループ。大手企業、全国の中小企業のヘルスケアビジネスをマーケティング戦略面からコンサルテーション、地方自治体の地域ヘルスプロモーションを支援する。各種研究機関の役員、委員も務める。大学教員(専門:ヘルスケアマーケティング、若者マーケット)。講演登壇、番組出演、教育研修の機会多数。