新規事業を立ち上げる前に知っておきたい10のポイント|新ビジネスの種

2017年11月14日

第7回  新規事業アイデアから事業コンセプトへ

前回のコラムでは、ステップ1として、新規事業アイデアの募集の仕方、ステップ2として、新規事業アイデアの評価の仕方について考察しました。今回は、ステップ3として、評価した新規事業アイデアをブラッシュアップして、新規事業の事業コンセプトを創り上げるプロセスについて考えていきます。

中小企業が新規事業を立ち上げる場合、募集した新規事業アイデアの中から事業コンセプト作りに進むのは3つ程度、多くても5つ程度に絞られます。この3つから5つのアイデアをブラッシュアップし、事業コンセプトへと創り上げます。事業コンセプト作りの中心となるのは「ターゲット顧客」と「提供価値」の明確化です。ブラッシュアップしていく過程で、再度事業としての評価を行い、実際に新規事業として自社の資源を投入するプランを選びます。中小企業の場合は同時に複数の新規事業をスタートすることは珍しく、通常は1つに絞ったうえで実行しますが、事業コンセプトを明確にする段階では必ずしも一つにこだわる必要はありません。

新規事業アイデアの段階でも、「誰に」「何を売るか」についての大枠は決まっていますが、事業コンセプト作りの段階ではこの大枠をより明確化して行きます。

最初に、大枠の(新規事業アイデアの段階で考えた)商品・サービスを実際に求めるターゲットはどういう人物像かを想定します(この段階ではあくまで想定です)。例えば、高齢者向けフィットネス事業を検討している会社があるとします。新規事業アイデア段階では「健康に興味がある高齢者層」というレベルでも良いですが、次のステップである新規事業コンセプトを作る段階では「会社を定年になって間もない60歳台、70歳台の男性で経済的余裕があり、健康意識は高いが体力の衰えを日々感じていて、その対策ができていない層」というレベルまでは具体化する必要があります。また、ターゲットのイメージは一つに絞るのではなく、可能性が高いターゲットイメージを複数持っておくようにしましょう。

ターゲット顧客のイメージが明確化できたら、次はそのターゲットが持つ具体的なニーズは何か考えます。人間の欲求は大別すると「快楽の追求」か「痛みの解消」と言われます。このどちらかの要素を追求したビジネスであればニーズは存在すると言えますが、「快楽の追求」を軸とした新規事業プランの場合は難易度が上がります。顧客のニーズが顕在化していないケースが多く、顧客に刺さる商品・サービス作りが比較的難しくなる傾向にあることが理由です。より可能性が高い新規事業プランを作りたいと考えるのであれば、「痛みの解消」から考えるほうが、顧客に刺さる可能性が高いプランを作ることができます。この「痛み」は「不」と言い換えることができます。ターゲット顧客は今のサービスの中でどのような不満、不便、不足、不快、不安等を感じているのかを出来るだけ洗い出します。

もしも検討している新規事業が現業の業界とは全く異なる場合、「不」をイメージすることが難しいかもしれません。その場合はその分野の専門家や業界紙から情報を得ることも有効ですが、実際に近しいビジネス現場に自分で足を運び、自ら体感してみることはより有効な方法です(フィールドリサーチ)。このような方法を使い、顧客の「不」についてできるだけ数多くの仮説を持ちましょう。この仮説が、新規事業で解決すべき顧客ニーズの候補となります。

この顧客ニーズの候補を持ったうえで、想定するターゲット顧客層へインタビューを実施します。インタビューは少なくとも10名以上は実施しましょう。また、偏りができないようにインタビューの対象を決めることも重要です。そのインタビューの中で、

  • こちらが想定した「不」は、実際に「不」と感じているかどうか(⇒こちらの想定が的外れになるリスクを排除する)
  • こちらが想定できていない「不」はないのか(⇒重要な「抜け・モレ」が発生するリスクを排除する)

という点を確認します。そのうえで、新規事業において解消すべき「不」の優先順位を付けていきます。

優先順位を決定する軸として、

  • その「不」を感じるターゲットはどの程度の割合で存在しているのか
  • その「不」はターゲットにとってどの程度重大であるか(お金を払っても良いか)
  • その「不」を解消することはどの程度難しいか

等が考えられます。

また、

  • 今はどのようにその「不」を解消しているのか
  • もしも、こういう商品やサービス(自社が考えている新規事業)があれば、どう思うか

等を聞くことによって競合商品・サービスがどこであるのか、自社の新規事業が顧客にどう評価されるかについてのヒントを得ることもできます。

実施するインタビューの中で、想定したターゲット顧客が「不」をさほど感じていない、あるいは「不」は感じているものの、自社が考える解決策があまり魅力的に感じられない、という回答が得られた場合、そもそものターゲット層の再設定、あるいは商品・サービス内容の刷新等を検討することになります。この段階ではターゲットの生の声を聴く前に作った新規事業アイデアを前提にインタビューをしているので、このようなことが起こることは珍しくありません。

また、ターゲット顧客へのインタビューから新規事業チームの中だけでは思いつかない示唆を得ることができ、顧客への提供価値の精度を高められるということもあります。インタビューについても人数を重ねれば重ねるほど入手している情報が多くなるため、後工程で実施するインタビューでは深い質問ができ、より刺さりやすい顧客ターゲットと、より精度の高い提供価値を見出すことができます。これらの一連のプロセスを繰り返すことで事業コンセプトを明確化していきます。

次回は、明確化したターゲット顧客と提供価値を土台とし、どのようにビジネスモデルに展開するかについて考えていきたいと思います。

今までのコラムは下記からご覧いただけます。

執筆者:株式会社eパートナーズ  代表取締役 出口 彰浩氏
編集人・編集責任者:武坂

出口 彰浩氏

<プロフィール>
株式会社eパートナーズ(http://www.epartners2015.com/) 代表取締役。中小企業の成長戦略達成支援、新規事業構築支援等のコンサルティングを提供。成長意欲が高い中小・ベンチャー企業を中心に、経験から培ったノウハウと最新の経営理論の両面を駆使した戦略を提案。
某シンクタンクで経営コンサルタントとしてのキャリアをスタートし、約7年新規事業開発やマーケティング等のプロジェクトに参画。2年間の海外MBA留学を経てベンチャーキャピタル業界へ転身。10年以上に渡り経営メンバーとして多くのベンチャー企業の成長に携わる。
趣味の剣道は30年以上のキャリアで、錬士七段。少年剣道の指導も実施。剣道の教えは驚くほど経営にも当てはまると学びながら日々現場で奮闘中。