新規事業を立ち上げる前に知っておきたい10のポイント|新ビジネスの種

2017年12月19日

第8回  ビジネスモデルの作成

前回のコラムでは新規事業のターゲット顧客と提供価値の明確化について述べました。今回は明確にしたターゲット顧客と提供価値を土台として、どのようにビジネスモデルに展開していくかについて考えていきます。

ビジネスモデルについては色々な定義がありますが、ここではビジネスモデルについて以下の3点について示したものと考えます。

●設定した提供価値をどう生み出すか

●明確化したターゲット顧客に対し、作り出した提供価値をどのようにして届けるか

●どのように収益を上げるか

この3点をわかりやすく表現する方法として、アレックス・オスターワルダーとイヴ・ピニョールによって開発されたビジネスモデル・キャンバスをここでは活用します。

ビジネスモデル・キャンバスでは、「顧客」、「与える価値」、「チャネル」、「顧客との関係」、「キーアクティビティ」、「キーリソース」、「キーパートナー」、「収入」、「コスト」という9つのブロックでビジネスモデルの全体像を表現します。

以下、それぞれのブロックについて簡単に解説します。

顧客

新規事業が生み出す提供価値によって「不」の解消を届ける相手をさします。ここは前ステップで明確化したターゲット顧客像を記入します。できるだけ具体的な「不」の内容とその「不」を抱えている人物像を書きます。

与える価値

新規事業で提供する具体的商品やサービスを通じてターゲット顧客に与える価値を記入します。この価値が顧客の抱える「不」を解消することになります。ここも前ステップで明確化した提供価値を記入します。

チャネル

提供価値を顧客に届けるためのルートや手法を記入します。マーケティングの4Pで言うと「Place」にあたります。直接販売、ネット販売、代理店販売等があります。新規事業を立ち上げたばかりの段階では顧客の反応をダイレクトに聞くことによって色々な情報が得られます。まずは直接販売から始めて様々な意見を取り入れ、その後インターネットや代理店販売を活用し販売を拡大するという流れが理想的と言えるでしょう。

顧客との関係

顧客との関係を構築、維持、強化するための活動です。最初に顧客と関係を構築するための広告や、アフターサポート、定期的な情報提供等があります。中小企業の新規事業の場合、1回売り切りのモデルでは常に顧客獲得コストが必要となり、収益面で厳しくなる傾向にあります。継続して利用してもらうモデルを作るため、顧客とどのような関係づくりをするかを考える方がよりリスクの低い新規事業を創りやすくなります。

キーアクティビティ

研究開発、製造、マーケティング、営業等、ビジネスモデルを円滑に回すための自社の主要な活動を示します。顧客が求める価値を提供するための自社が必ず実行しなければならない重要な活動を記載します。ここでは、他社に任せることができず、自社にしかできない活動を中心に検討しましょう。

キーリソース

新規事業を機能させるために必要となる社内の経営資源を記入します。以前のコラムで解説した、既存顧客とのネットワークや既存製品の技術・ノウハウや知的財産はここに入ります。また、新規事業に取り組む優秀な人材もこのブロックに入ります。

キーパートナー

新規事業を実現するために協力を得る外部のパートナーやリソースを記入します。中小企業が新規事業を立ち上げる場合、全てを社内の経営資源で完結できないケースが多々あります。まずは社内でカバーできないリソースを洗い出し、それをどこから調達するべきかを記入します。例えば、ソフトウェア系の新規事業を考えている場合であればシステム開発会社はキーパートナーとなり得ます。

収入

新規事業から得られる収入の流れを記載します。誰からお金を受け取るか、また受け取るタイミングは一括なのか、定期的に受け取るか、前払いなのか都度課金なのか等、できるだけ具体的な内容を記入します。
1回あたりの単価や月額総額など、できるだけ具体的に記入しましょう。顧客インタビューから製品・サービスの単価につながる情報を得ることができます。この情報をもとに単価を設定しましょう。

コスト

設定した提供価値を実現し顧客に届けるために必要なコストを記入します。キーリソースの調達、キーパートナーからの協力、キーアクティビティの実施において必要なコストを記載します。人件費、広告費、原価等が該当します。また、固定費と変動費を明確にしておくと様々な分析が可能になります。単価が設定できていれば変動費を差し引くことで限界利益が把握でき、限界利益と固定費が把握できると損益分岐点が把握できます。また、投資額がわかればその回収期間も計算可能となります。

まず、ビジネスモデル・キャンバスを作成してみて、自社が想定している顧客提供価値を生み出すことができ、かつそれを届けることが可能なのかを冷静に分析しましょう。例えば、今設定している「与える価値」を生み出すために、「キーリソース」や「キーパートナー」だけでは難しい場合、新しいリソースの入手や別のキーパートナーを探すということになります。あるいは、「与える価値」の内容を一部省くということも検討する必要があります。

また、「収入」と「コスト」のバランスも新規事業を考えるうえで極めて重要です。例えば限界利益率が低く、大量に販売しないと損益分岐点に達しないモデルであるとすると、マーケティングにかなりの工夫が必要で、中小企業が取り組むビジネスとしてはハードルが上がってしまいます。

このように、

●設定した提供価値をどう生み出すか
●明確化したターゲット顧客に対し、作り出した提供価値をどのようにして届けるか
●どのように収益を上げるか

をビジネスモデル・キャンバスを用いて全体像を把握し、ビジネスとして成立するように調整をしていきます(ビジネスモデル・キャンバスを何度も作り直す)。どう調整しても、ビジネスとして成り立たない、という場合は別のプランを検討することになります。このように書くと、あっさり諦めてしまっているように感じるかもしれませんが、この調整には長い時間をかけてチーム内で検討を重ねていきます。仮に諦めてしまうという結論になったとしても、このステップを踏まずにスタートして多額の損失を出すよりはよっぽど合理的です。

次回はビジネスモデルを完成させたうえで、事業計画をどう作るかについて考えたいと思います。

今までのコラムは下記からご覧いただけます。

執筆者:株式会社eパートナーズ  代表取締役 出口 彰浩氏
編集人・編集責任者:武坂

出口 彰浩氏

<プロフィール>
株式会社eパートナーズ(http://www.epartners2015.com/) 代表取締役。中小企業の成長戦略達成支援、新規事業構築支援等のコンサルティングを提供。成長意欲が高い中小・ベンチャー企業を中心に、経験から培ったノウハウと最新の経営理論の両面を駆使した戦略を提案。
某シンクタンクで経営コンサルタントとしてのキャリアをスタートし、約7年新規事業開発やマーケティング等のプロジェクトに参画。2年間の海外MBA留学を経てベンチャーキャピタル業界へ転身。10年以上に渡り経営メンバーとして多くのベンチャー企業の成長に携わる。
趣味の剣道は30年以上のキャリアで、錬士七段。少年剣道の指導も実施。剣道の教えは驚くほど経営にも当てはまると学びながら日々現場で奮闘中。