新規事業を立ち上げる前に知っておきたい10のポイント|新ビジネスの種

2018年1月16日

第9回  事業計画の作成

前回はビジネスモデル・キャンバスを使って、新規事業プランの全体像をどう描くかについて考察しました。今回はその次のステップとして、事業計画書の作成方法について考えます。

新規事業立案における事業計画書と一般的な事業計画書はその作成目的が異なります。一般的な事業計画書は、銀行等の金融機関や投資家に対し資金調達や今後の事業の見通しを説明するために作成される場合が大半です。一方、新規事業における事業計画書は、その新規事業をスタートさせる承認を経営陣から得ることが最も大きな目的となります。つまり、外部に提出するものではなく、経営会議等で経営陣に説明し、理解してもらうことを目的とした資料となります。この意味で、一般的な事業計画書とは書く内容が一部異なり、社内で前提として共有できる項目については詳細に書く必要はなく、簡潔に書くことができます。

また、もう一つの大きな目的として、承認を得て新規事業をスタートした後の経営管理のための活用があります。売上や営業利益が予測と実際で差異が発生した場合、その差異の原因はどこであるのか、計画段階と実際にスタートしてみた後で想定と違う点はどういう点なのかを把握し、
PDCAを適切に回していくための基礎資料となります。

「事業計画書」と聞くと、難しく考えてしまいなかなか手が動かせないというご意見を頂くことがあります。しかし、実際に手を動かしながら考えていくと思考が整理されるだけでなく、検討が不十分だった点が明らかになります。難しく考えず、まずは手を動かしながら考えるというスタンスで始めるのがコツです。あまり細かいことにこだわるのではなく、まずは骨組みから書き始めて、段階を経て詳細を書くという進め方が効率的です。

以下、私が実務上活用している事業計画の目次案を示しながら、そのポイントについてコメントしたいと思います。なお、この目次案はあくまでサンプルなので、項目や順番についてアレンジしていただいて当然結構です。

1.エグゼクティブサマリー

検討した新規事業プランの全体像を簡潔に示します。経営陣の方々は多忙で、全ての資料に目を通すのが難しいかもしれません。その多忙な経営陣が新規事業の全体像を短時間で把握するための項目です。このエグゼクティブサマリーだけを見て新規事業案の評価をする経営者も存在します。その意味では極めて重要な項目です。簡潔に、モレなく、かつ分かりやすく、論理として流れる書き方をすることがポイントです。

2.事業の目的

新規事業の大義・ミッション、また、何故当社がその新規事業に取り組まなければならないのかを説明します。

3.事業の全体像、商品・サービスの概要

どんなターゲットに、具体的に何を売るかについての概略を説明します。ここはあくまで概略で、全体像が伝われば十分です。

4.市場分析

新規事業で参入する市場の規模とその成長性(率)を示します。また、設定したターゲットの属性と特長、なぜそのターゲットを選定するべきなのか、そのターゲットが抱えている「不(不満・不便・不足・不快・不安 等)」は何か、等を解説します。(この点はインタビューを実施しているはずなので、インタビュー結果を十分に分析の上記載しましょう)

5.競合・業界の状況

想定される競合他社をリストアップし、強み、弱みを含めた特徴を纏めます。例えば、売上、営業利益、資本金、社員数、製品の特長、拠点数、営業戦略(販売方法)等です。また、競合分析においてはポジショニングマップを活用することも有効です。

業界の分析はマイケル・ポーターのファイブ・フォース分析を活用し、潜在的な脅威や改善点を予め把握しておくことが有効です。

6.マーケティング計画

研究開発型の新規事業は別かもしれませんが(当初は開発フェーズになるので)、中小企業の新規事業の成否においてマーケティング計画は極めて重要です。また、新規事業チーム全員で営業に取り組む必要があります。想定されるターゲットにどうリーチするのか(広告やWEBをどう活用するか等)、またリーチした後、どのようなコミュニケーションをするのか、等、戦略レベルの大局観だけでなく戦術レベルまで新規事業をスタートする前に検討しておくことが必要です。新規事業をスタートした後に、すぐに具体的な営業活動に取り組める準備をしておきましょう。

7.組織体制とパートナー

新規事業チームの規模と構成メンバーの属性、また、既存事業部門へ求める支援内容を記載します。社内のリソースだけで完結しない場合は、想定される外部パートナーのリストアップも行います。

8.ビジネスモデルの全体像(ビジネスモデルキャンバスを使って)

前回のコラムで考察したビジネスモデル・キャンバスを示します

9.収支計画

新規事業をスタートする前に、精度の高い収支計画を作成することは不可能ですが、売上のロジック(例えば、客数×客単価)や想定されるコストの見積もりは丁寧に検討します。また、必要とされる投資金額、投資回収年数、撤退基準なども明確にしておきます。収支計画の作り方については次回のコラムでさらに詳しく述べたいと思います

10.リスク要因

どんな事業にも必ずリスクは存在します。どのようなリスクが考えられるかリストアップしておきます。例えば、大資本の参入、仕入先からの協力が得られない、思う通りの収益性が出ない、等が考えられます。この中で、「これが満たされないと事業として存続できない」というリスク要因(ノックアウトファクターと言います)には特に注意が必要です。例えば、事業の展開にパートナーの協力が必須という場合、パートナーが当社と提携してくれるかどうか、またその条件は妥当なものかどうかは極めて重要なリスク要因となります。スタートする前にリスク要因について把握し、適切な対応をしていくことも極めて重要です。


以上が事業計画書の主な項目となります。これらの項目を考察し、新規事業をスタートさせる上で必要な項目を漏れなく検討して経営陣への説明に臨みましょう。

次回は、事業計画書の中でも特に重要な収支計画の作り方について考えます。

今までのコラムは下記からご覧いただけます。

執筆者:株式会社eパートナーズ  代表取締役 出口 彰浩氏
編集人・編集責任者:武坂

出口 彰浩氏

<プロフィール>
株式会社eパートナーズ(http://www.epartners2015.com/) 代表取締役。中小企業の成長戦略達成支援、新規事業構築支援等のコンサルティングを提供。成長意欲が高い中小・ベンチャー企業を中心に、経験から培ったノウハウと最新の経営理論の両面を駆使した戦略を提案。
某シンクタンクで経営コンサルタントとしてのキャリアをスタートし、約7年新規事業開発やマーケティング等のプロジェクトに参画。2年間の海外MBA留学を経てベンチャーキャピタル業界へ転身。10年以上に渡り経営メンバーとして多くのベンチャー企業の成長に携わる。
趣味の剣道は30年以上のキャリアで、錬士七段。少年剣道の指導も実施。剣道の教えは驚くほど経営にも当てはまると学びながら日々現場で奮闘中。