新ビジネスの種

2012年7月17日

これだけは覚えておきたいシニアマーケット基礎数字(3)
~もっと旅行に行きたいが冠婚葬祭や医療の費用がかさんで断念~

※記事をご覧いただく場合は「詳しく見る▼」ボタンをクリックしてください。

1.理想としては旅行に使いたいのに、実際には医療や冠婚葬祭へ支出

1か月間の1世帯あたりの支出総額は、総世帯の247,219円に対して65歳以上の高齢世帯は211,340円と低い。ただし、品目別にみると、高齢世帯は、総世帯に比べて特に「交通・通信」や「教養・娯楽」が特に低い一方、「交際費」や「保健医療」等の割合が高くなっている。高齢世帯は遠距離の移動に係る交通費やPCや携帯電話など通信機器を用いた教養・娯楽活動への支出は少なく、冠婚葬祭等に費やしている傾向がうかがえる。また、「食料」の中では、「外食」の割合が低く、「魚介類」、「野菜・海藻」、「果物」の支出が比較的高くなっている。

図表1 総世帯及び高齢者世帯の1か月間の平均支出総額(2011年、円)

総世帯及び高齢者世帯の1か月間の平均支出総額

出所)総務省「家計調査(家計収支編)平成23年」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

注)高齢世帯とは世帯主が65歳以上の世帯

また、支出の構成割合をみても同様に、高齢世帯の「交通・通信」は比較的少なく、「交際費」は比較的多くなっている。

図表2 総世帯及び高齢者世帯の1か月間の平均支出構成割合(2011年、%)

総世帯及び高齢者世帯の1か月間の平均支出構成割合

出所)総務省「家計調査(家計収支編)平成23年」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

注)高齢世帯とは世帯主が65歳以上の世帯

別の調査でも60歳以上の世帯で、「過去1年で大きな割合を占める支出」をみてみると、「健康維持や医療介護のための支出」、「冠婚葬祭費」、「子供や孫のための支出」、「自動車等(オートバイを含む)の購入・整備」、「住宅の新築・増改築・修繕」が比較的多くなっている。

一方、「優先的にお金を使いたいもの」は「健康維持や医療介護のための支出」「旅行」「子供や孫のための支出」等が比較的多くなっている。現実の支出と比較すると、「旅行」等により費やしたいという希望があるものの、実際には冠婚葬祭や自動車等の維持費に予想以上の出費があるようだ。

図表3 過去1年で大きな割合を占める支出(3つまでの複数回答)(60歳以上)(%)

過去1年で大きな割合を占める支出

出所)内閣府「平成18年度 高齢者の経済生活に関する意識調査結果(全体版)」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

2.高齢者の余暇はパソコンや国内旅行が多く、海外旅行への願望も高い

60代以上の余暇活動の参加率をみてみると、男女とも「パソコン(ゲーム、趣味、通信など)」、「国内観光旅行(避暑、避寒、温泉など)」、「ドライブ」、「外食(日常的なものを除く)」、「園芸、庭いじり」が上位となっている。

他世代と比べて参加率が高いものは、男性は「日曜大工」、「写真の制作」、「園芸、庭いじり」、女性は「園芸、庭いじり」、「編物、織物、手芸」、「洋裁、和裁」等となっており、いずれも自宅での余暇活動となっている。他にも、男性は、「ピクニック、ハイキング、野外散歩」、「ゴルフ(コース)」、「ゴルフ(練習場)」、「登山」、「体操(器具を使わないもの)」などスポーツ関連の余暇活動、女性は、「美術鑑賞(テレビは除く)」、「観劇(テレビは除く)」、「ピクニック、ハイキング、野外散歩」、「体操(器具を使わないもの)」、「催し物、博覧会」、「音楽会、コンサートなど」などスポーツ関連と芸術関連の余暇活動となっている。

余暇活動の潜在需要(参加希望率-参加率)をみてみると、男女ともに60代以上でも全体と同様、旅行が高く、特に海外旅行が高くなっている。次いで男性では、「釣り」、「絵を描く、彫刻する」、「書道」、「演芸鑑賞」、「囲碁」、「洋楽器の演奏」、女性では、「観劇」、「絵を描く、彫刻する」、「演芸鑑賞」、「卓球」、「催し物、博覧会」、「エアロビクス、ジャズダンス」が上位にあがっている。

図表4 60代以上の余暇活動の参加率(%)

60代以上の余暇活動の参加率

出所)公益財団法人日本生産性本部「レジャー白書2011」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

図表5 60代以上の余暇活動の参加率が多世代より高いもの(%)

【男性】

60代以上の余暇活動の参加率が多世代より高いもの

【女性】

60代以上の余暇活動の参加率が多世代より高いもの

出所)公益財団法人日本生産性本部「レジャー白書2011」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

図表6 余暇活動の潜在需要(参加希望率-参加率)(%)

余暇活動の潜在需要

出所)公益財団法人日本生産性本部「レジャー白書2011」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

3.高齢者のインターネット利用は半分以下、メールやサイト閲覧が中心

過去1年間のインターネット利用経験をみてみると、全体の約80%に対して65歳以上の男性47%、同女性34%と低くなっている。

利用内容をみてみると、65歳以上でも男女とも全体同様、「電子メールの受発信(メールマガジンは除く)」、「ホームページ(ウェブ)・ブログの閲覧」が上位となっている。しかし、男性はいずれも50%前後であるのに対して女性は低く、それ以外の利用についても15%以下である。一方男性は、「地図情報提供サービス(有料・無料。乗換案内、ルート検索サービス含む)」、「商品・サービスの購入・取引」も約36%利用しており、「地図情報提供サービス」は全体よりも高くなっている。

図表7 過去1年間のインターネット利用経験(%)

過去1年間のインターネット利用経験

出所)総務省「平成22年通信利用動向調査 世帯編(世帯構成員)」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

図表8 過去1年間にインターネットで利用した機能・サービス(MA)(%)

過去1年間にインターネットで利用した機能・サービス

出所)総務省「平成22年通信利用動向調査 世帯編(世帯構成員)」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

注)パソコン又は携帯電話(PHS・PDAを含む)での利用

4.生きがいは家族との団らん

60歳以上の人に「生きがい(生きていることの喜びや楽しみを実感すること)を感じるのはどのような時か」にきいたところ、「子供や孫など家族との団らんの時」がもっとも高く、次いで、「趣味に熱中している時」、「テレビを見たり、ラジオを聞いている時」、「友人や知人と食事、雑談している時」、「旅行に行っている時」、「おいしい物を食べている時」となっている。

なお、同じ調査を他国でもしているので結果を比較してみると、各国とも「子供や孫など家族との団らんの時」の割合が最も高くなっているが、日本48.4%に対して、米国74.2%、韓国61.8%、ドイツ65.3%、スウェーデン78.7%とかなり高くなっている。また、2番目に高い選択肢をみると、日本では「趣味に熱中している時」(39.4%)となっているのに対して、日本を除く4か国では「友人や知人と食事、雑談している時」(アメリカ63.4%、韓国41.9%、ドイツ54.2%、スウェーデン66.9%)の割合がくなっている。日本の高齢者は周囲の人との交流がやや少ないことが窺える。

図表9 生きがい(生きていることの喜びや楽しみを実感すること)を感じるとき(%)

生きがい(生きていることの喜びや楽しみを実感すること)を感じるとき

出所)内閣府「平成22年度 第7回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査結果(全体版)」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

5.介護が必要になっても自宅での生活を希望

「身体機能が低下して、車いすや介助者が必要になった場合、自宅に留まりたいか、どこかへ引っ越したいか」きいたところ、「現在のまま(留まりたい)」及び「改築の上(留まりたい)」を合計した「自宅に留まりたい」が66%ともっとも高く、次いで「老人ホームに入居したい」となっており、過去と比較してみるといずれも増加傾向にある。「病院に入院したい」は6%程度で、平成2年の約20%から大幅に減少している。「子供の住宅に引っ越したい」も変わらず4%未満にとどまっており、身体機能が低下しても、自宅で過ごすことを望んでいる人が多いことが伺える。

図表10 身体機能が低下して、車いすや介助者が必要になった場合、自宅に留まりたいか、どこかへ引っ越したいか(%)

身体機能が低下して、車いすや介助者が必要になった場合、自宅に留まりたいか、どこかへ引っ越したいか

出所)「内閣府平成22年度第7回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査結果(全体版)」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

注)「自宅に留まりたい」は、「現在のまま(留まりたい)」及び「改築の上(留まりたい)」の合計

まとめ

  • 高齢世帯(世帯主の年齢が65歳以上の世帯)の支出額は総世帯よりは少ないものの、世帯人員の少なさ(総世帯平均2.47人、高齢世帯同1.96人)を考えると、1人当りの支出金額はむしろ高い(総世帯1人当り平均支出総額約100,089円、高齢世帯同約107,827円)。高齢になっても生活水準を落としていない様子がうかがえる。
  • しかし、支出の内訳をみると、冠婚葬祭費等が家計を圧迫して、希望する旅行等への支出が抑えられてしまっている。旅行は、シニア世代で潜在需要が最も大きなレジャー活動でもある。より廉価な冠婚葬祭あるいは廉価な旅行へのニーズがまだ存在すると考えられる。
  • 総じて、高齢になると、若い世代と比較して、活動や興味の範囲も狭くなり、その分、自身や家族の健康等へ関心が向く傾向があるが、昨今の高齢者像の変化は著しい。急激に高齢者の意識や行動が若返っており、従来では高齢者の利用が考えられなかったファッションや趣味等にも進出するなど、若い世代との共用やエイジレス化が進んでいる。加齢に伴う心身の変化の影響を除けば、長期的には、年代別のマスマーケティングより、嗜好によるセグメントマーケティングがより重要になってくると考えられる。
  • 繰り返しになるが、高齢者の最大の関心事は健康である。支出面をみても、「魚介類」、「野菜・海藻」、「果物」などヘルシーな食べ物の支出が比較的高くなっていたり、優先的にお金を使いたいものとして「健康維持・医療介護」がトップになっていることからも分る。この傾向は、今後も変わらないものと思われる。

編集人:井村 編集責任者:瀬川
編集協力:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社