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2012年11月20日

国内高齢者市場vs新興国若・中年市場、日系企業はどこを狙うべきか

昨今、日系企業による海外進出が急速に増加している。特に、工場など生産拠点の設置ではなく、新興国の富裕層や中間層をターゲットとした市場開拓が目的とした動きである。つまり、かつて内需型といわれた企業が外需を狙って進出しているものだ。

一方、低成長下の国内でもまったく成長市場が無いわけではない。例えば、高齢者向けの健康、介護といった分野である。

今後、日系企業は、新興国の中間層以上の中年以下を狙って進出を加速させるという道と、国内の高齢者を狙っていく道がある。いったいどちらがお得なのか。

今月は、上記について、マクロ的指標から基礎情報を整理しながら検討する。

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1.新興国の若年・中年層は30億人以上、日本の高齢者人口(3000万人)の100倍以上

2010年現在の各国の65歳以上人口、64歳以下人口をみると、日本国内の高齢者数が約3000万人であるのに対して、新興国の若年・中年層は30億人以上である。1人当たりの所得差があるとはいっても、桁違いの市場ボリュームが想定される。

※:ここではブラジル、中国、インド、インドネシア、タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム、バングラデシュの合計

ここで、各国の総人口と65歳以上人口を2010年と2050年で比較してみると、総人口に関しては減少する国から1.7倍まで増える国までバラツキがあるものの、65歳以上人口についてはすべての国で増加する見込みである。

個別にみると、2050年には、日本、ドイツ、ロシア等で人口が減少する一方、フィリピン、サウジアラビア、マレーシア等で5割以上増加すると予測されている。また、大半の国で高齢化が進展し、日本の高齢化率38.8%を筆頭に、韓国、イタリア、スペイン、ドイツ等で30%以上となり、先進国以外でも、タイ、中国、ベトナム、ブラジル等においても2010年現在の日本(23%)と同等かそれを上回る水準となっている。マレーシア、バングラデッシュでも1990年代半ばの日本と同水準となる見込みである。

図表1 主要国の65歳以上人(万人)と比率(%)(2010年)

主要国の65歳以上人(万人)と比率(%)(2010年)

出所)総務省統計局資料より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

図表2 主要国の65歳以上人(万人)と比率(%)(2050年)

主要国の65歳以上人(万人)と比率(%)(2050年)

出所)総務省統計局資料より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

各国の人口の増減や高齢化の進展のスピードには下記のような大きな差がある。中でも、17%以上高齢化率が高まる韓国、中国、ベトナムは、現在の社会インフラの整備や経済成長への注力から高齢化対策へ大きな政策転換が必要になる。

図表3 主要国の総人口と65歳以上人口の伸び(2010年度と2050年度の比較)

主要国の総人口と65歳以上人口の伸び(2010年度と2050年度の比較)

出所)総務省統計局資料より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

2.インドは高度成長期、中国、タイは安定成長期?

2011年の主要国の1人当たりの名目GDPをみてみると、日本は、スウェーデン、米国に次いで、フランス、ドイツと同等レベルとなっている。

注目したいのは、2万ドル以下の国々である。このゾーンにはブラジル、ロシアやインド、東南アジアなどいわゆる新興国といわれる様な国々が並ぶ。ここで、日本の経済発展段階時期を当てはめてみる。わが国とは国の歴史や経済発展の経緯が異なるので単純には比較できないが、日本が過去に経験してきた各時代の雰囲気を振り返ると、各国のインフラ整備状況や生活水準、生活リズムなど数字だけでは表現されにくい“温度”がなんとなく感じられるかもしれない。

個別にみると、インドや、インドネシア、フィリピン、ベトナムなど東南アジア諸国の1人当たりGDPの水準は、日本で言うと高度成長期に相当する。一方、中国、タイは、日本では高度成長期の後のオイルショックが終わって安定成長期に入った頃と同程度である。さらに、ブラジル、マレーシア、ロシア、トルコになると、1980年代前半の日本の安定成長期に相当し、韓国、サウジアラビアは1980年代後半のバブル期並みとなっている。

こうしてあらためて比較すると、日本の過去の経済発展段階と、各国の状況は意外に類似している。

図表4 主要国の1人当たりの名目GDP(2011年)と日本の経済発展との比較

主要国の1人当たりの名目GDP(2011年)と日本の経済発展との比較

出所)世界銀行資料より、三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

3.半数以上の企業が海外での事業展開を予定

ジェトロ「「平成23年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」によると、海外事業の拡大を図ると回答した企業は73.2%に達しており、と平成22年度調査結果(69.0%)からも増加している。企業規模別にみると、中小企業は前回調査の66.0%から71.4%と初めて7割を超え、大企業(76.8%)に迫る勢いとなっている。

事業規模の拡大を図る方法(販売、生産、研究開発など)としては、販売機能の拡大を図る企業が76.3%と最も多く、国・地域別には、中国を重視する企業の比率が最も高く、タイが地域統括拠点など一部の機能を除いて中国に次いで2位となっている。

※:日本企業9,357社(うち中小企業は82.7%)を対象に、輸出や海外投資などの海外事業展開について2011年11~12月にアンケートを実施(有効回答数2,769社、回答率29.6%)。

まとめ

  • 今回は、あくまで潜在需要のボリュームを比較したものであり、世帯当たりの購買力やニーズを考慮していないので、各個別商品の市場と直接的にはリンクしない。しかし、日本の高齢者人口が3000万人であるのに対して、新興国の若年・中年層は30億人以上と、市場規模の違いは明らかである。現時点では、新興国の若中年層向けと国内高齢者向けでは商品コンセプトは異なり、どちらかを選ばざるを得ない。商品開発の必要性や販路開拓なども考え合わせた場合、どちらの方が“オトク”なのだろう。
  • 各国別に見ると、若年・中年層の人口が1億人以上なのは、中国、インド、インドネシア、バングラデシュ等くらいである。国が異なれば、同じ商品やパッケージ等が使えるとも限らず、流通経路や商品供給システムも異なり、個別に構築する必要がある。つまり、新興国の若・中年層向け商品は、基本的な商品コンセプトは国内の既製品が流用できたとしても、ローカライズが必要となる場合もある上、新規にチャネルを開拓していく必要もある。現地ブランドや企業を買収したり、ブランドを認知させる費用、現地の販売体制を強化する費用なども必要になるかもしれない。さらには、ブラジル等のような高額な関税や諸税がかかる場合や、輸入規制、物流インフラの未整備等の課題もある。
  • では、高齢者市場となるとどうか。高齢者向け商品となると、国内でも機能そのものやパッケージ、チャネルの見直しが必要になるかもしれない。さらに、日本の消費者は世界一洗練されているといわれ、要求水準も高い上、既に参入している競合も多く、新たなカテゴリーでもない限り先行者利益を得ることも難しい。
  • こう考えると、長期的な市場戦略を遂行するだけの企業体力や余力があるなら、新興国の若・中年層市場は経済成長に伴う所得水準の向上や近隣国への横滑り展開による売上げ拡大が見込めることから、かなり魅力的である。
  • ただし、2050年にはタイ、中国、ベトナム、ブラジル等でも現在の日本と同じかそれ以上の高齢化が進む。それまでにも高齢者のニーズが顕在化してくることから、まずは国内の高齢者市場に参入してノウハウを積んでおくことも重要である。

編集人:井村 編集責任者:瀬川
編集協力:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社