新ビジネスの種

2013年7月16日

今後の注目コンテンツ「シニア向け健康アプリ」

昨年の本欄「デジタルシニア急増中」ではシニア世代におけるIT利用の急増ぶりを紹介した。しかし、携帯電話やスマートフォンでは、まだまだ電話機能のみを利用するシニアも多く、メールやサイト閲覧まで利用する人は少ない。一方、今でもPCや携帯よりもFAXを主要な連絡手段とする層もいるなど、シニアのデジタル化は一様ではなく、若年世代以上に”まだら模様”となっている。

このようにシニアのインターネット利用率が他世代と比較して低いこともあって、中高年男性向けに体重や歩数等を記録する健康管理サイトや女性の体のリズムを管理するアプリは多数ある一方で、シニアに特化したアプリやサイトは現時点では国内向けはほとんど見られない。その点、海外では徐々にシニア向けの健康コンテンツが登場している。

今月はシニアの健康アプリ利用に関する実験とIT利用状況について紹介する。

<参考とした調査の概要>
  • 調査名:「Harnessing Different Motivational Frames via Mobile Phones to Promote Daily Physical
    Activity and Reduce Sedentary Behavior in Aging Adults
    」(2013年4月25日)
  • 調査主体:スタンフォード大学疾病予防研究センター アビー・キング博士と調査チーム
  • 調査対象:45歳~81歳までの中高年層68人(平均59.1歳)、女性73.5%
  • 調査名:「シニア・高齢者のインターネットとFAXの利用状況に関する調査」
  • 調査主体:(株)ジー・エフ
  • 調査対象:60歳代、70歳代、各600世帯
  • 調査方法:アウトバウンドIVRによる電話調査
  • 調査時期:2012年12月27日
  • 調査名:「シニア・高齢者のソーシャルメディア利用に関する調査」
  • 調査主体:(株)ジー・エフ
  • 調査対象:50代、60代の672世帯
  • 調査方法:アウトバウンドIVRによる電話調査
  • 調査時期:2012年1月27日

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1.健康アプリで健康行動への関心が高くなったシニアは7割以上

スタンフォード大学疾病予防研究センターのアビー・キング博士と調査チームは、定期的な身体活動で健康を高めることを目的とするスマートフォンのアプリが増えていることに着目し、健康改善の新しい方法論としての可能性を探る調査を行った。
45歳から81歳(平均年齢59.1歳)の、身体活動が不十分な人(週に行う軽い運動が60分未満、1日10時間以上座ったきりなど)で、携帯は使っているがスマートフォンは使っていない68人の参加者を3つのグループにわけ、行動科学論に基づいて設計された毎日継続的に行える健康行動を促す3つのスマートフォンのアプリをそれぞれ8週間使ってもらい、行動の変化を計測した。

3つのアプリは、自己モニタリングにより自己の目標を設定する「分析的」アプリ、他の参加者の身体活動と比較ができる「社会的」アプリ、参加者の身体活動や座ったきりの状態を「鳥」の動きで見せる「感情的」アプリである。さらに、これら3つのアプリによるデータを集積して、国が推奨するウォーキングなどの軽い運動を週に150分以上行うよう、適宜参加者にフィードバックされるようにプログラミングされている。

8週間後に参加者は、きびきびしたウォーキングの週当たりの時間が、総合で100.8分(分析的71.1分、社会的122.9分、感情的105.7分)と増加した。軽い~活発な身体活動の週当たりの時間も総合で188.6分(分析的172.9分、社会的257.1分、感情的134.3分)と増加した。テレビ観賞などに費やされる座ったきりの時間も1日当たり総合で29.1.分(分析的48.9分、社会的34.9分、感情的6.5分)減少した。調査前の運動状況が「週に行う軽い運動が60分未満、1日10時間以上座ったきりなど」であることを考えると、スマホのアプリ利用による一定の健康増進効果があったといえよう。

図表1 きびきびしたウォーキングの週当たりの時間(分)

図表1 きびきびしたウォーキングの週当たりの時間(分)

図表2 軽い~活発な身体活動の週当たりの時間(分)

図表2 軽い~活発な身体活動の週当たりの時間(分)

図表3 座ったきり(テレビ観賞等)の1日当たりの減少時間(分)

図表3 座ったきり(テレビ観賞等)の1日当たりの減少時間(分)

出所)「Harnessing Different Motivational Frames via Mobile Phones to Promote Daily Physical Activity and Reduce Sedentary Behavior in Aging Adults」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

アプリの健康改善の効果については、87%の人が「座ったきりの時間に気づかせてくれた」、74%の人が「座ったきりにならない動機を得られた」、71%の人が「定期的な運動を忘れないことに役立つ」、69%の人が「身体活動を活発にしてくれた」と回答しており、70%以上の人が、アプリが自分の身体活動を見直すきっかけとなり、それを改善することにつながったと満足している。

また、参加者はそれまでにスマートフォンを使ったことがない人であったが、調査開始時に、スマートフォンやアプリの使い方を教える時間を設けたこともあり、調査後には、91%の人が「スマホは情報を得る速くて効率的な手段である」、87%の人が「アプリは使いやすかった」、85%の人が「スマホ・アプリにはまだ無制限の可能性がある」と回答しており、スマートフォンやアプリの可能性について高い興味を示している。「スマホの使い方が分からなかった」という人はわずか9%だった。

図表4 アプリの健康改善効果の満足度(%)

図表4 アプリの健康改善効果の満足度(%)

図表5 スマートフォンの満足度(%)

図表5 スマートフォンの満足度(%)

出所)「Harnessing Different Motivational Frames via Mobile Phones to Promote Daily Physical Activity and Reduce Sedentary Behavior in Aging Adults」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

このうち12人の参加者が、さらに約200日間アプリを使い続けたところ、半数以上(53.5%)の人が、少なくとも6か月間アプリを継続使用する気があることを示し、70%の人がアプリを他の人に推薦すると回答している。

2.二極化するシニアのデジタル利用 ~ネットより多いFAX利用、一方、「インターネットを使う必要は無い」が4割以上~

ところで、60歳以上のシニア層のインターネットの利用状況は、全体で44.5%、男性60代で63.7%、男性70歳以上で52%、女性60代で46.3%、女性70歳以上で30%という((株)ジー・エフ「シニア・高齢者のインターネットとFAXの利用状況に関する調査」)。

同様に、インターネットを利用しない理由についても尋ねたところ、各年代とも、「利用する必要や目的がない」が40%前後ともっとも高く、ついで、「使い方が分からない・面倒」、「機器がない」となっている。「今後利用したい」は、60代は男性、女性とも10%前後であるのに対して、70歳以上は男性5.6%、女性3.3%とかなり低くなっている。

図表6 インターネットを利用しない理由

図表6 インターネットを利用しない理由

出所)「シニア・高齢者のインターネットとFAXの利用状況に関する調査」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

一方、FAXの利用状況については、「利用している」が全体で58.2%と、インターネット利用より高くなっている。60代は、男性、女性ともに60%前後であるのに対して、70歳以上では、男性63%、女性51.3%と男性の利用率のほうが高くなっている。なお、FAXの利用目的としては、利用者の過半数(54.7%)が「家族・友人、勤め先・サークル等との連絡」を挙げている。

図表7 FAXの利用状況

図表7 FAXの利用状況

出所)「シニア・高齢者のインターネットとFAXの利用状況に関する調査」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

さらに、ソーシャルメディアの利用状況を聞いたところ、「興味がない」が57.4%と高く、「利用している」は6.5%とかなり低くなっている。「興味があるが利用していない」は、男性は50代、60代とも43%前後であるのに対して、女性は30%前後となっており、男性のほうがソーシャルメディアに対する興味が高くなっている((株)ジー・エフ「シニア・高齢者のソーシャルメディア利用に関する調査」)。

図表8 ソーシャルメディアの利用状況

図表8 ソーシャルメディアの利用状況

出所)「シニア・高齢者のソーシャルメディア利用に関する調査」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

まとめ

  • スマートフォンは直感的な操作ができるため、シニアにとって使いやすいと言われている。しかし、多くのシニアは、フィーチャーフォン(ガラケー、従来型の携帯電話)においてそうであったように、通話機能のみを使う人も多く、メールやサイト閲覧まで利用する人はまだまだ少ない。スマ-トフォンは端末や通話料金がフィーチャーフォンよりは高いので、通話だけで事が足りるシニアから敬遠されている。
  • 本来、インターネットによる旅行情報の検索・申込や健康情報の検索等はシニアの需要があるはずだが、利用料金の高さや新たな機器の利用方法を覚える面倒さ等が障害となっていることがうかがえる。
  • 世の中全体としてはネット環境がほぼ浸透しており、シニアにおいてもその傾向が進んでいることは間違いない。ただし、現時点では、シニアの間では携帯電話やPCでのインターネットよりもFAXのような簡易な機器の方が、その操作の簡便性から重用されている。シニア向けビジネスの情報提供や販路を考える際に留意したい点である。さらには、性・年代によっても利用率や利用意向に明らかな差異があることも注目したい。
  • なお、インターネットを利用しない主な理由は、必要性や目的がない、というものであった。それどころか、レジャーのための諸連絡等はFAXで事が足りてしまうのであれば、使い方の講習をいくらしても普及は困難かもしれない。ネットに親しんだ世代の高齢化に伴って、長期的にはインターネット利用の割合が逆転すると考えられるが、同じ世代での普及率はそれほど容易には上昇しないと考えられる。
  • ただし、新しい使い方が楽しく生活の質を上げてくれるものであれば話は別である。例えば、シニアで関心の高い健康などだ。
  • スタンフォードによる調査結果は、中高年における健康増進目的でのIT利用の今後の可能性を感じさせるものであった。どの様なアプリを使用するかで結果は大きく異なると考えられるが、日々の努力の結果の記録や目標達成状況のフィードバック(可視化)等はデジタル機器が得意とするところである。シニア向けのシンプルで扱い易い機器の開発とともに、魅力的なコンテンツの開発や利用シーンの提案といった地道な努力の必要性を再確認した。

編集人:井村 編集責任者:前場
編集協力:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社