新ビジネスの種

2013年10月15日

見守りサービスの現状と海外の事例

高齢になると、予期せぬ転倒や体調の急変等があってもおかしくない。特に、足腰が弱っていたり、慢性疾患を抱えていたりする場合はなおさらである。また、高齢の親が一人暮らしをしているとなると、まだ深刻な状況でなくても、子どもとしては気になるところである。かといって、仕事等の都合で同居もできない。このような悩みを抱える人は多く、注目を浴びているのが見守りサービスである。

今月は、見守りサービスについて検討する。

<参考とした調査の概要>

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1.見守りサービスとは

見守りサービスとは、施設に入るほど要介護度は高くない方や、要支援の方、支援が必要でない方、一人暮らしで他者の助けが必要ない方などを対象に、安全な状態が保たれているか見守るものである。従来から自治体などが提供する、高齢者の異常事態発生時に本人がボタンを押すこと等で急を知らせ、人が駆けつける「緊急通報サービス」や、自動的に、電気ポットやガスの利用状況を別居の家族等のパソコンや携帯電話に送信したり、部屋に取り付けたセンサーによって在室状況を送信する(人は駆けつけない)「安否見守りサービス」等がある。

つまり、「緊急通報」「安否確認」「駆け付け」がサービス構成の要素となっており、それらの組み合わせと、通報を高齢者本人が行うか、機器で自動的に感知して確認するかという方法の違いで、料金が変わってくる。

2.過半数が見守りサービス加入意向有り

65歳以上で在宅で暮らす親を持ち別居している人に見守りサービスの加入意向を聞いたところ、「必要と思う時期が来たら加入したい(45.9%)」、「すぐにでも加入したい(0.8%)」と「数年以内には加入したい(3.9%)」を合わせて肯定的な意向を示した人が過半数(50.6%)を占めた。

さらに、親の年齢別にみると、親の年齢が「85歳未満」まで、親の年齢が上がるとともに「数年以内には加入したい」と考える割合が高くなっている。

親の居住地までの所要時間別にみると、親の居住地まで「2時間未満」までで距離が遠くになるにつれて「必要と思う時期が来たら加入したい」と考える割合が高くなっている。

図表1 見守りサービスへの今後の加入意向(%)

図表1 見守りサービスへの今後の加入意向(%)

出所)財団法人ベターリビング「緊急通報・安否確認システムによる高齢者の見守りサービスに関するニーズ調査結果」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

なお、見守りサービスへの加入を検討しない理由としては、「親の住まいの近所に、親を見守ってくれるあなたの兄弟や親戚等がいるから(37.4%)」が最も多く、次いで「見守りが必要な時期が来たら、あなたやあなたの兄弟等と同居を考えているから(24.2%)」となっている。

見守りサービスへの加入を検討する際に重視している項目(「大いに重視する」+「やや重視する」)は、「サービス加入時の初期費用や月々の支払料金(66.8%)」が最も高く、以降、「現場まで駆け付けてくれる時間(64.0%)」など機能・内容に関するものが軒並み6割前後またはそれ以上となっている。特に、親の年齢が85歳以上では、2割弱が「緊急通報サービス」「駆けつけサービス」を望んでいる。

一方、企業の評価や信頼性、その他のサービスとのセットプラン等については、それらと比較するとやや低かった。

図表2 加入を検討する場合の重視事項

図表2 加入を検討する場合の重視事項

出所)財団法人ベターリビング「緊急通報・安否確認システムによる高齢者の見守りサービスに関するニーズ調査結果」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

さらには、最も重視されている費用に関して、見守りサービス加入時に妥当と考えられている価格帯についてきいてみると、「A緊急通報サービスのみ」と「B安否確認サービスのみ」では月額「500円未満」が半数程度と比較的安価な価格帯が妥当と考える一方、「A緊急通報+B安否確認+C駆け付けサービス」では月額「3000円以上」が約4分の1となっている。

3.過半数が見守りサービス加入意向有り

ところで、海外をみると、より先進的な事例がある。日本ではシニア向けの情報提供と、緊急通報や見守りなどは個別に提供されることが多いが、下記事例は、ニュース提供から緊急通報までワンストップで提供する、さながらシニア総合ポータルといったところである。Indiegogoは比較的元気な高齢者、Independaはより健康に不安がある高齢者がターゲットになっているようにうかがえる。

なお、日本では、日本郵便のように、安否確認と買い物代行を組み合わせたようなサービスも出てきている。

【見守り機器市場の参入例】

<Indiegogo(シンガポール)社“Silverline”>

Silverline では他にも、高齢者向けにニュースや興味をひきそうな話題を画像や動画入りで配信するサービスや、分かりやすい写真入りの連絡先リストなどを提供している。

○Well-being(携帯・スマホ用 健康管理用アプリ)
薬や水を飲む時間になると教えてくれたり、運動を催促してくれたりする。毎日の体調を記録し、健康に関するアドバイスもしてくれる。
○緊急通報用アプリ「Emergency」
パトカーや救急車の絵が描かれた大きくて見やすいアイコンをタップするだけで、110番や119 番できる。転倒などの異常を検知すると、ケアワーカーに自動で通報してくれる機能も備えている。

<Independa(米国)>

テレビやタブレット、スカイプといった普及してい機器やるシステムを活用しながら、高齢者と家族等のコミュニケーションを重点的にサポートする仕組み。IT弱者が多い高齢者が使いやすいように配慮されているのがポイント。

○コミュニケーション・システム「Angela」
テレビ(LG社製)やタブレット(サムソン社製)を使い、一人暮らしの高齢者と家族のコミュニケーションをスムーズにするシステム。テレビは、提携しているLG社製のカメラ内蔵型スマートテレビを使い、スカイプによるビデオ通話、簡易メール、フェイスブックがワンタッチでできる仕組み。高齢者にとっては、難しいITの設定が一切不要で、使いやすいことが特徴。
他にも、両親と電話でつながり、会話の内容を録音/保存する機能“Life Stories”も提供。
○日常生活管理・通知「Smart Reminders」
高齢者に家族の誕生日、診察日など、日々のスケジュールを通知するシステム。家族が高齢者に代わって情報を入力し、高齢者が忘れることなく実行できるようにする。
○見守り「Integrated Monitoring」
健康状態の把握(血圧計、体重計、血糖値などのバイタルサイン)、本人の行動の把握(ドアの開閉、身体の状況を各種センサーで把握)、防犯(室温、煙探知機など)を行うモニタリングシステム。なお、高齢者の家族(遠隔での介護者)には専用のウェブサイトがあり、家族同士で情報交換ができる仕組みも作っている。

まとめ

  • 見守りという言葉自体、十数年前まではあまり一般的でなく、看護や介護の専門職の間でのみ使われていた感があるが、介護保険制度が導入され、介護の外部化の過程で「直接的に身体を介護したり家事援助をするわけではないが、必要不可欠かつ介護のうちかなりの時間を占める行為」としてクローズアップされ、それ以降、急速に需要が顕在化した。そして、今や、高齢者の見守り市場は百数十億円規模とも言われている。しかし、それでもまだまだ加入する人は少なく※、潜在需要を考えると今後の拡大が期待される。
  • ※上記で紹介した調査によると、現在の見守りサービス加入状況は、「緊急通報サービス」3.5%、「安否確認サービス」1.0%、「駆け付けサービス」1.7%に過ぎない。「現在検討している」が多い。見守りサービスに加入していない理由をきくと、約半数が「まだ自分の親には必要ない(時期尚早)と思うから」と答え、次いで「親の住まいの近所にあなたやあなたの兄弟・親戚等がいるから」となっている。なお、「まだ自分の親には必要ない(時期尚早)と思うから」は親の年齢に伴って減少し、85歳以上では2割まで下がる。(財団法人ベターリビング「緊急通報・安否確認システムによる高齢者の見守りサービスに関するニーズ調査」)。
  • これらのサービスは、高齢者の子ども世代が「自身で直接サポートできない」という罪悪感に対する免罪符のようなものである。従って、高齢者本人よりその子ども世代に売り込む方が有効と考えられる。そこで、その情報伝達経路となると、お世話になっている介護関係者等以外に、介護系のサイトや中高年向け雑誌など高齢者自身では使わないような媒体まで含まれることになる。繰り返すが、高齢者本人の安心感や便利さ以外にも、関わる子ども世代の利便性や罪悪感の払しょくに資するという観点も、販促上、重要となる。

編集人:井村 編集責任者:前場
編集協力:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社