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2015年7月14日

ここにもあった!看護・医療周辺ビジネス
~医療費は今後10年で約4割増、周辺ビジネスも拡大傾向に~

医療に関連する市場は高齢者人口の増加に伴って今後も成長することが予想される。その中でも最大市場は医療保険に係る部分である。ただし、そこは、医療行為そのものや、医薬品、医療機器関連など、高度な専門知識が要求される上、関連法規や規制等、様々な事実上の参入障壁が存在し、さらには、その時々の施策からも大きな影響を受ける。

一方で、医療に関わる市場といっても、実際には、医療機器等に該当しない業務用品や、職員の労働環境の向上、業務効率化、医療従事者や患者・家族のQOL向上等、法や制度に影響を受けない、比較的参入が容易な市場も存在する。

今月は、後者の医療保険外の市場に関して、その種類やニーズを整理する。

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1.医療周辺ビジネスの範囲

広義の医療等に係る市場を、ターゲットと法規制の有無、利用目的等から図表1のように整理した。

本稿で使う「医療周辺ビジネス」とは、広義の医療ビジネスのうち、医療法・薬事法等で規定されないビジネス、ただし、医療周辺サービスは除く部分(網掛け部分)をさす。

この部分に該当するものとしては、

(1)患者本人やその家族、医療従事者のライフスタイル改善・症状緩和、疲労回復を目的としたもの(サプリメント・食品、メンタル/スピリチュアル・ケア、各種自然療法・健康法、栄養・運動・休養、健康機器・癒しグッズ等)、

(2)医療施設や在宅など医療・看護現場向けに業務効率の向上等を目的としたもの(看護用品、病棟備品、文具、衣類、雑貨等)が挙げられる。

(2)の看護用品、病棟備品、文具、衣類、雑貨等の市場は、一見して、既に一通りのビジネスがそろっているように見えるが、既存品の使い勝手、デザイン等を改良することによって新たに参入する機会はまだまだ存在すると考えられる。

図表1 広義の医療ビジネスの範囲

広義の医療ビジネスの範囲

注)図表中の各注は下記※1~3参照
出所)三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

※1:医療機器の分類と具体例
分類名 許可・届出等 具体例
高度管理
医療機器
高度管理医療機器等販売業・貸与業の許可取得が必要 コンタクトレンズ、輸液ポンプ、人工心肺装置、人工呼吸器、除細動器、縫合糸、人工骨、人工関節、歯科用インプラント材、電気手術器、レーザー手術装置、自己検査用グルコース測定器等
特定保守管理
医療機器
X線撮影装置、シンチレーションカメラ、超音波画像診断装置、MR装置、CT装置、心電計、ベッドサイドモニタ、リアルタイム解析型心電図記録計、ストレッチャー等
管理医療機器 販売・貸与を行うために管理医療機器販売業・貸与業の届出が必要 (特定保守管理医療機器以外の医療機器)家庭用電気治療器、低周波治療器、温熱治療器、家庭用マッサージ器、補聴器、歯科用金属等
一般医療機器 販売・貸与を行うための届出は不要 (特定保守管理医療機器以外の医療機器)メスやピンセット等の鋼製小物類、救急絆創膏、X線フィルム、副木、歯科用ワックス等

出所)行政等公表資料を基に三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

※2:医療法および関係法令によって、下記業務に関しては、医療機関が業務委託を行う際、厚生省令で定める基準に適合する事業者に委託することが定められている。

○検体検査
人体から排出され又は採取された検体の微生物学的検査、血清学的検査、血液学的検査、病理学的検査、寄生虫学的検査及び生化学的検査(以下この条において「検体検査」という。)の業務 (医療法施行規則第9条の8)

○滅菌消毒
医療機器又は医学的処置若しくは手術の用に供する衣類その他の繊維製品の滅菌又は消毒(以下「滅菌消毒」という。)の業務(医療法施行規則第9条の9)

○患者給食
病院における患者、妊婦、産婦又はじよく婦の食事の提供(以下「患者等給食」という。)の業務 (医療法施行規則第9条の10)

○患者搬送
患者、妊婦、産婦又はじよく婦の病院、診療所又は助産所相互間の搬送の業務及びその他の搬送の業務で重篤な患者について医師又は歯科医師を同乗させて行うもの (医療法施行規則第9条の11)

○医療機器の保守点検
医療機器の保守点検の業務(医療法施行規則第9条の12)

○医療用ガス供給設備の保守点検
医療の用に供するガスの供給設備の保守点検の業務(医療法施行規則第9条の13)

○寝具類洗濯
患者、妊婦、産婦又はじよく婦の寝具又はこれらの者に貸与する衣類(以下「寝具類」という。)の洗濯の業務(医療法施行規則第9条の14)

○院内清掃
医師若しくは歯科医師の診療若しくは助産師の業務の用に供する施設又は患者の収容の用に供する施設の清掃の業務 (医療法施行規則第9条の15)

※3:医療廃棄物処理、医療事務、院内情報システム、院内物品管理、病院経営コンサルティング、医療情報サービス(診療ガイドライン、施策動向、論文検索等)、在宅医療サポート(見守り・安否確認・緊急通報、在宅医療機器のレンタル・点検・保守、24時間相談窓口等)等。

*:「特別管理産業廃棄物を生ずる医療関係機関等における特別管理産業廃棄物管理責任者」の設置が義務づけられている。

2.看護師さんの主な悩みは「人間関係」「忙しさ・給与」「不眠・疲労」?

今回の対象市場の主なターゲットと考えられる、看護師の悩みについて整理しておく。悩みを網羅的に把握している情報源が見当たらなかったため、複数サイト等からの情報をまとめると、概ね、以下の様なものが挙げられている。

悩みの内容は、一般企業における女性の多い職場でのものと似ている部分もあるが、看護師に特有なものとしては、勤務体制(夜勤、交代制勤務)、業務量・休暇の少なさ、それらからくる体調不良、医療事故への不安等が挙げられる。

<看護師の主な悩み(例)>

  • 上司・同僚・患者さん等との人間関係(いじめ、ハラスメント等)
  • 給与・待遇(給料が低い、業務量が多い)
  • 転職・退職(しようかどうか、時期、上司への伝え方等)、職場復帰
  • 仕事への意欲、キャリア
  • 医療事故への不安
  • 体・健康(不眠、疲労、メンタルヘルス、生理不順等)
  • 恋愛・結婚・子育て

/等

なかでも、交代制勤務等に伴う勤務実態をみると、1カ月あたりの夜勤の回数は、三交代制勤務者では一般病棟は日勤10.5回、夜勤8.5回(準夜勤4.3回、深夜勤4.2回、日勤後に十分な休息なく次の深夜勤に入るシフトが77.3%)、二交代制勤務者では一般病棟で日勤11.4回、夜勤4.5回、仮眠時間が「2時間未満」が78.8%とされている。また、有給休暇の平均取得日数は、三交代制勤務者0.7日、二交代制勤務者0.5日、「0日(取得なし)」がそれぞれ49.5%、59.1%、「1日を取得」がそれぞれ36.8%、32.1%という調査結果もある(いずれも日本看護協会「2010年病院看護職の夜勤・交代制勤務等実態調査」より)。一般企業と比べると、かなり厳しい勤務状況となっていることが窺える。

それだけでも、不眠や疲労につながる十分な要因になりえるのに、医療事故への不安・緊張感や職場でのコミュニケーション低下・人間関係悪化といった状況が重なることで、メンタルヘルス不全等にもなり易いものと考えられる。

なお、メンタルヘルスについても看護師が深刻な状況にあることを窺わせる調査結果がある。常勤看護職員全体に占める、メンタルヘルス不調(診断書あり)によって1カ月以上の長期病気休暇を取得した職員の割合は0.8%と、一般労働者に占める同割合(0.3%)の2.5倍以上に達している。特に、「東京23 区・政令指定都市」「400床以上」「20歳代」では、メンタルヘルス不調の割合が高い傾向がある。(日本看護協会「2011年病院看護実態調査」、2007年度「労働者健康状況調査」)。

ここで再び、<看護師の主な悩み(例)>に戻ると、このような悩み解消ビジネスとして、看護師に特化した

  • 人間関係・コミュニケーション・メンタルヘルス改善のためのサービス、コミュニケーション・ツール
  • ワーク・ライフ・バランス、キャリア・カウンセリング
  • 抗疲労、睡眠改善(測定・教育・カウンセリング、グッズ販売等)

等も考えられる。

看護師向け転職ビジネス等限られた市場では既に各社が参入しているが、それ以外では、医療機関(BtoB)または看護師本人(BtoC)に向けたものはまだ少ない。なお、医療事故に限らず、転職・退職の率の高さも看護職に特徴的であり、そのリクルーティング等のコストも馬鹿にならない。その点からも、メンタルヘルス不全や疲労の予防といった観点からの従業員向けサービスへのニーズも高いと考えられる。

3.まとめ

こうして改めて検討すると、医療・看護については、医療行為そのものや付随する市場以外に、様々な市場が存在し、多様なニーズが発生していると考えられる。一方で、それに対応する商材・サービスは充足しているとは言えない状況である。

医療・看護現場には特有の注意すべき点があり、また、医療従事者や患者の家族等も、一般的な職場や家庭とは異なる環境下にあることから、商品に求める効率性や安全性等も一般的なものとは異なるのは事実であり、そこへいかに、“かゆいところに手が届く”ようなものを提供するかで強みを出す発想も必要である。一方、参入方法としては、何も、機能を付加・改善するまでしなくても、既存品のパッケージ・製品のデザインを替えや、チャネルを医療機関・看護師向けにするだけでも可能であり、冒頭でも述べたが、法や制度に影響を受けないため、中小企業も比較的参入が容易である。

今一度、自社の商品・サービスを、「医療周辺市場でも使えるか」「医療機関、医療従事者、患者家族等でニーズは無いか」という目線で眺めて頂ければ、もしかしたら、新しい方向性を見いだせるかもしれない。

編集人:井村 編集責任者:武坂
編集協力:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社