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2012年6月5日

ブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)に対する頸髄損傷患者さんの意識調査

現在、脳波を利用して、身の回りにある機器の操作やコミュニケーションを行うブレイン・マシン・インターフェース(BMI)技術の研究が進められており、実用化されつつあります。
すでに、パソコン操作に使える脳波マウスや脳波で遊ぶ玩具などが販売され、これ医療分野では、麻痺患者の運動機能回復のリハビリやロボットアームなどの運動機能を代行できる装置と脳波を組み合わせ、動作補助や自分の思った通り、自分の手足のごとく動く機器として活用できるようなると考えられています。

今回は、大阪大学医学部脳神経外科 特任准教授 平田氏らが、大阪頸髄損傷者連絡会事務局の協力を得て実施した、「ブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)に対する頸髄損傷患者さんの意識調査」の結果を紹介します。

実施時期:2011年2月
実施者:影山悠氏1)、平田雅之氏1)、鳥屋利治氏2)、柳澤琢史氏1)、吉峰俊樹氏1)
1)大阪大学医学部脳神経外科、2)大阪頸髄損傷者連絡会

はじめに

イメージ図

Brain-Machine Interface(BMI)とは、脳信号をコンピュータで解読してその内容を推定し、思いどおりに外部機器を操作することにより、脊髄損傷や筋委縮性側索硬化症、脳卒中後遺症等による障害をもつ患者さんに機能支援をおこなう技術です。BMIが本当に患者さんの役に立つものにするため、大阪頸髄損傷者連絡会に御協力頂き、大阪府下の頸髄損傷患者さんを対象としてBMIに対する意識調査をおこないましたので、その結果をご報告します。

方法

対象は大阪頸髄損傷者連絡会に登録する160名の患者さんです。重症度と医療処置・生活状況・BMIに対する関心・BMIに期待する機能に関するアンケート用紙とBMIについての説明DVDを郵送および電子メールにて送付しました。

結果

49名の患者さんもしくは家族の方からから回答を頂きました。回答者の内訳は患者本人51%、介護者による代弁・代筆41%、介護者による患者意思の推察2%でした。男女比は約5:1で、年齢層は60代が23%、40代21%、50代20%、30代18%の順でした。

図表1)患者プロフィール

図表1)患者プロフィール

《BMIへの関心》

侵襲型BMIへの関心:57%、非侵襲型BMIへの関心:27%と全体を合わせると84%もの方々がBMIへの関心があると回答され、侵襲型というより積極的な手法に関心を寄せる方が多い結果でした。

図表2)BMIへの関心の有無

図表2)BMIへの関心の有無

《BMIに望む機能》

侵襲型BMIに関心があると回答された方では、運動機能制御や環境制御を選んだ方がそれぞれ23名、続いて意思疎通を選んだ方が11名と続きました。具体的には運動制御として「体位変換」「車椅子移動」に対する強い希望が見られ、環境制御では「緊急時のアラーム」「ベッドコントロール」というように、日常生活に直結した内容や生命維持に重要な機能を筆頭に幅広い要望がありました。

図表3)侵襲型BMIに関心のある患者が望む機能

図表3)侵襲型BMIに関心のある患者が望む機能

非侵襲型BMIに関心があると回答された方がBMIに期待する機能としては運動制御:10名、環境制御:7名、意思疎通:5名と続きました。具体的には侵襲型を選択された方同様に「体位変換」「車椅子移動」、そして「ロボットアームでの作業」がそれぞれ54名と同様に選択されていました。また、環境制御では「緊急時のアラーム」に対する要望が高く、家電のリモコン操作やベッドコントロールはこれに続きました。

図表4)非侵襲型BMIに関心のある患者が望む機能

図表4)非侵襲型BMIに関心のある患者が望む機能

《重症度と医療処置》

頸髄損傷のレベルについては頸髄1~3番:23名、頸髄4番:22名、頸髄5番:25名、頸髄6番:20名という結果でした。運動麻痺の程度については完全麻痺:49%、不全麻痺49%と二分されました。呼吸管理については10%の方が常時人工呼吸器を必要とされていましたが、86%の方々は使用していないという結果でした。食事に関しては部分的な介助を含めると大半の方が口からの摂食が可能でした。

図表5)重症度と医療処置

図表5)重症度と医療処置

《意思疎通の現状》

「円滑にできる~だいたいできる」を合わせると、88%の方はほぼ問題無くコミュニケーションがとれているという結果でした。

図表6)意思疎通の現状

図表6)意思疎通の現状

《パソコン利用》

「よく利用する」61%、「時々利用する」25%、「ほとんど~まったく利用しない」12%と多くの方がパソコンや携帯端末を利用されていました。特に60歳未満の方ではパソコン利用が有意に高いという結果が得られました。パソコンの利用目的としてはインターネットでの情報収集やメール作成が多く見られました。

図表7)パソコン利用

図表7)パソコン利用

《車椅子利用》

車椅子の使用については「電動車いす」:27名、「手動車椅子」:26名、「使用していない」:4名という結果でした。

図表8)車椅子の利用と種類

図表8)車椅子の利用と種類

《他人への連絡を要した緊急事態》

これまでに経験された緊急事態としては「病気」:26名、「福祉機器等の故障」:26名、「ヘルパーの突然のキャンセル」:14名、「家族の病気や怪我」:11名という結果でした。緊急時の連絡手段としては電話や携帯電話を利用される方が大多数でした。

図表9)経験した緊急事態

図表9)経験した緊急事態

《インターネットの利用》

インターネットの利用者は88%にも及びました。利用の内容としては「個人的な興味・娯楽」:41名、「商品の購入・検索」:34名、「コミュニケーション(メールを含む)」:33名、「仕事・勉強の情報収集」:26名と、多岐に渡りました。

図表10)インターネットの利用

図表10)インターネットの利用

《環境制御装置の利用》

「利用している」:27%、「利用していない」:69%と大差があり、利用しない理由としては「必要が無い」:18名、「装置購入の為の費用負担が大きい」:14名という回答が得られました。

図表11)環境制御装置の利用

図表11)環境制御装置の利用

《介護について》

普段の生活での介助の有無と平均時間を尋ねたところ、96%の人が介助を受けており、時間は「7時間未満」:38%、「7~13時間未満」:33%、「13時間以上」:15%とばらつきがありました。受けている介助の内容としては食事・更衣・掃除洗濯など、衣食住全般に関して幅広い選択肢が選ばれました。現在の介助に対する満足度としては「非常に満足している」:3名、「満足している」:24名、「やや満足している」:15名、「あまり満足していない」:4名、「全く満足していない」:2名と現状の介助で有る程度の満足が得られている事が判りました。

図表12)介護について

図表12)介護について

まとめ

頸髄損傷という外傷に関わる性質上、男性の方が圧倒的に多く、また中高年層が大勢見られました。BMI全体に対する関心は84%と高く、さらに手術侵襲を要する侵襲型BMIを選択された方が57%と多いことが特徴的で、積極的に活動レベルを改善したいという強い意思が伺えます。また、障害の程度に関しては不全麻痺・完全麻痺の方が半々であったものの、日常生活について半数以上の方が離床して外出等行われているようです。

図表13)日常生活動作

図表13)日常生活動作

意思疎通に対する障害は全体的に軽度であり、BMIに期待される機能も「運動制御」や「環境制御」に関するものが多く見られました。
パソコンやインターネットは既に多くの方が経験されており、BMIに対する積極的関心の見られた一因かと推察されます。また、パソコンに関しても環境制御装置でも「費用負担」がネックになると選ばれた方が一定の割合見受けられ、今後BMIを利用した機器を開発するにあたり、コスト面も重要な課題になってくると思われます。

謝辞
本アンケート調査は、文部科学省「脳科学研究戦略推進プログラム」課題A『ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)の開発』により行われた。