- ゼク・テック株式会社2018年認定
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子宮頸がん検診などの婦人科検診で診断精度を高めるLBC法。
課題だった手作業部分を自動化したLBC自動細胞洗浄遠心機の普及のため、コーディネータとともに取り組んだ売り方、そして伝え方とは。
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国際標準なのに日本ではまだ10%しか普及していないLBC法。
(難波)ゼク・テックは、解剖室や病理検査室など感染症対策室の設計・設備の専門業者として2014年に設立されました。スタッフとして病理解剖機器・設備の営業経験者や臨床検査技師、医療機器経営経験者などが集まって創業された会社です。大阪トップランナー育成事業の認定を受けたのは、当社の開発した細胞洗浄遠心機<MC480LBC>よるLBC検査法で子宮頸がん患者を救い医療費を軽減するという趣旨の取り組みです。
(黒田)しかし、そのLBC検査法そのものが日本の医療業界ではまだ普及していないため認知が拡大しないというのが当時の最大の課題でしたね。
(難波)そうなんです。LBC検査法、つまり液状細胞診検査方法というのは、旧来の直接塗抹法に比べて見落としが少なく信頼性が高いと言われており、すでに国際標準の方法なんです。けれどアメリカでは普及率が90%に到達しているのに、日本ではいまだ10%程度に過ぎない。普及が遅れていた理由の一つには、検査の前処理工程が手作業で煩わしいということもあったと思います。そこで当社の<MC480LBC>では前処理工程を自動化しました。すでに検査の全行程をフルオートにする機器もあったのですが、部分的な自動化により10分の1程度のコストで導入することを可能にしています。
(黒田)わたしはエンジニアでもあるので技術的なことは理解できたのですが、やはりLBC検査法についてはまったく知りませんでしたね。
(難波)医療関係からの反応も、最初はLBC検査法への理解が進んでいないことから発生する指摘が多かったですね。得られた細胞像が「きれいすぎる」とか。
(黒田)先生方がいままで検査してきた経験則の面から、画像に違和感があったんでしょうね。
(難波)ええ。手作業だった工程が自動化されたことにより、あまりにも周囲がきれいになりすぎたみたいなんです。これでは異常を判断するための情報まで取り除かれているのではないか、と思われてしまったわけですね。
(黒田)コーディネータとして最初に感じたのは、すでに機器は完成しているのですから必要なのは技術的なことではなく売り方、あるいは伝え方だろうなということでした。そこで、まずはプロモーションや営業手法などから着手したわけです。月に1回の営業会議にも参加させてもらいました。
(難波)あれはほんとうに驚きでしたね。社員がみんな技術畑なので、初めて聞かされたような話ばかりでしたし。
(黒田)営業管理の方法を明確化しただけなんです。見積り一つとっても、だれが担当したのか、顧客からの依頼なのか、こちらから自主的に提出したのか。先方とどの段階まで話は進んでいるのか、止まっているのか。そうしたことをすべてデータベース化し、全員で共有しながら、これからの対処策を決めていくべきなんです。そうした営業フローを整理することから始めました。
伝え方を見直すためのツールを改善。展示会で得たデータも詳細に分析。
(難波)営業会議では、営業で成功するための考え方というものをアドバイスしてもらったような感じでした。販促用ツールも厳しく指摘されましたし。
(黒田)伝え方の部分ですね。自分もエンジニアなので気持ちは理解できるんですが、どうしても技術のすごさを事細かく説明したくなるんですよ。でも、それではだめなんです。LBC検査法を広めたいなら、小学生でも理解できるような表現をするべきだと。写真やイラストを多用するなどしてね。そうしてLBC検査法を理解する人が増えていき、逆に患者の側から医者に持ちかけてもらうぐらいにならないと。
(難波)そういえば、展示会についても従来とはまったく違うアプローチを指導してもらいましたね。
(黒田)何度か展示会での行動を拝見させてもらったところ、みなさん名刺交換だけで満足してしまっている。これではだめだと思ったんです。
(難波)いままでの慣習から、名刺をもらって、アンケートに記入してもらって、それで終わりだと思っていました。
(黒田)そこで終わらずに、必要なのは分析です。製品を売る上でのボトルネックを探し出すことが重要なんです。価格が問題なのか、それとも機能をなにか追加すればもっと検討されるのか。そこで、まずはノートを1冊用意してくださいと。会場で名刺をもらったらページにホッチキスで留めて、対応した社員、相手からの質問内容などを忘れずに細かく記録していく。それを展示会が終わってから全員で分析し、共有、最優先と思われる相手をピックアップして、できるだけ早急にアプローチしていくようにしてもらいました。もろちん、それ以外の人にも、お礼がてらにあらためて説明の場をもらえるようアポイントをとっていく。それらを徹底しないと、せっかく費用をかけて展示会に出展しても意味がないんです。
(難波)すごく勉強になりました。
(黒田)コーディネータとしては、これほどまでに関係するのはプレッシャーもあるんですよ。営業会議というアウェーに乗り込むような気分かな。業界の専門家でもないし、誰なんだこいつは、と思われても仕方ないですよね。でも、やはり現場の人たちの本音を聴きたい。こちらの意見を採用するかどうかは最終的に社長の判断ですが、どんな意見を出すにせよ上辺だけのものにはしたくないんです。
(難波)正直、ここまでコーディネータの方が真剣に寄り添ってくれるとは思っていませんでした。大々的に宣伝費をかけて広告するような業界ではないけれど、大阪トップランナー育成事業に選ばれて少しでも知名度が上がれば良いなぐらいの気持ちでした。けれど第三者的な視点からいただいた意見の数々は、他の事業でも営業やツール作成に役立つものばかりですし、いまも会社の大きな財産になっています。
(黒田)そう言ってもらえると、ほんとうに嬉しいですね。コーディネータが伴走するプロジェクトというのは100種類あれば100通りの課題があります。その一つ一つと真剣に向き合って深堀りをしていくと同時に、社内の人では気づかない一歩引いた視点からの意見を提供することも重要な責任だと思っていますから。
俯瞰的なビジネス視点から、緊張感を与え営業意識を改革。
(難波)実際に、大阪トップランナー育成事業に認定されてからは、予算申請まで到達する件数が増えていきました。アドバイスいただいた結果は着実にでていますね。もちろん予算申請されたと言っても最終的な納入決定までは年単位の時間がかかったりする業界なので、なかなか安心はできないんですけども。そういえば、黒田さんに言われた言葉ですごく印象に残っている言葉があります。
(黒田)なんですかそれは。
(難波)「やめどきを判断するように」ということです。
(黒田)ああ、それはきついことを言ってしまいましたね。でも当然なんですよ。営業経費をかけて販売を続けても、利益が見合わなければどこかで決断しなくてはいけなくなる。他にも展開している事業がある以上、そちらに経営リソースを振り向けるべき時がくる。そうして将来的に余裕ができたとき、それでも社会的に必要な事業だと思えば再挑戦しても良いわけです。
(難波)もちろん市場調査もして売れる自信があったから製品化したわけですが、たしかにつくりたいものをつくっても売れなければビジネスではありませんものね。
(黒田)もちろん「やめろ」と言いたかったわけではなくて、むしろ逆です。営業会議でみんなの熱意を感じていたので、続けることは大切だと思っていました。ただ、前のめりになりすぎるのではなく、もっとメリハリを持ってほしかった。
(難波)実際に、あのときから営業の意識が大きく変わりました。事業としてなくなる可能性もあるという自覚が緊張感になって良い方向に向かった気がします。
(黒田)信念とか熱意をもっている会社だというのは感じていました。だからこそ、あんなことが言えたんでしょう。
(難波)営業先についてもあらためて見直しをおこないました。大学の病理部などは、すでに自動化が進んでいるだろうと思っていたのですが、検査センターのように大量の検体処理は必要なく、むしろ多種少量検体処理の方が求められているんですね。ターゲットを絞り込むことで予算申請までこぎつけたり、デモ依頼を受けることが多くなりました。
(黒田)視野狭窄にならずに俯瞰的に見るというは、事業継続においてほんとうに大切なことですよね。
(難波)ええ。今後も、感染症専門という芯がぶれないようにしながら、そこから枝葉を広げるようなチャレンジをしようと思っています。この<MC480LBC>にしても、病理検診だけでなくゲノム医療への応用も今後の展望として広がりつつあります。大阪トップランナー育成事業としてのハンズオン期間は終了しましたけど、黒田さんにはこれからも“VIPアドバイザー”として助言をいただければと思います。
(黒田)こちらこそ、よろしくお願いします。