患者さんの顔を傷つけず医療者の負担を軽減する次世代の人工呼吸器用マスク
独自の構造と圧力分散技術により低圧でもしっかり密閉できる設計に。顔への負担を大幅に軽減し、快適な治療を可能に。
人工呼吸器用マスクの圧迫により皮膚障害が発生
- 認定プロジェクトの経緯について教えてください
-
原
私は循環器内科を専門にしています。医療の現場では、人工呼吸器を使用する患者さんの多くが、マスクの強い圧迫による顔の傷(褥瘡(じょくそう))や不快感に苦しんでいるという課題がありました。従来の人工呼吸器用マスクは、数時間着けるだけで約半分の患者さんに、さらに48時間使い続けるとほぼ100%の患者さんに皮膚障害が発生すると言われています。この皮膚障害は厚生労働省の患者調査や国内外の文献を元にすると、年間10万件以上が発生しており、1例あたり200万円以上のコスト負担がかかると弊社では推定しています。これは、患者さんだけの問題ではなく、医療従事者にとっても非常に大きな業務負担となっていましたが、これまで解決するプロダクトがなかったので、我々で開発したという経緯です。
皮膚を傷つけないシリコン製のじゃばら型マスクを開発
- どのようなマスクなのでしょうか
-
原
この人工呼吸器用マスク「javalla(ジャバラ)」は従来の人工呼吸器用マスクの課題を解決する次世代のマスクです。素材は触り心地が柔らかな医療用シリコンを使い、マスクのクッション部分をじゃばら構造にすることで顔の形状に追従してフィットするようにしています。さらに、顔を包み込むように内側のクッション部分が変形するような構造になっており、鼻に当たる部分にヒダ状の構造を加えました。そうすることで、2mmHgという非常に低圧で密閉性を保つことができるようになり、既製品で生じていた空気漏れや不快感が劇的に改善されました。顔に加わる圧負担は、従来のマスクの約1/3であることから、非常に大きな技術的革新であるということが分かるかと思います。また、患者さんやご家族に選んでもらえるように「javalla」に使用するバンドとピンを6色ずつ用意し、医療器具でもおしゃれを楽しめる要素を取り入れました。現在、患者さんにはECプラットフォームを通じてご購入いただけますし、病院には医療機器の卸メーカーを通じて導入いただけるようにしています。
- プロジェクトをどのように進めてこられましたか
-
原
こういう製品を作りたいという概念を我々で考え、大阪のものづくりの企業や、さまざまな技術者の意見を聞きながら少しずつ製品化していきました。このマスクは非常に柔らかい医療用シリコンを金型で抜いて作っています。実は、このじゃばらの構造を金属製の金型から抜くというのは、非常に難しい技術が必要で、その開発に5年くらいかかりました。この「javalla」のものづくりには、多くの人の知識や技術がふんだんに使われています。
2024年から販売開始。販路拡大と周知をめざす
- 今後、どのように展開していく予定ですか
-
原
「javalla」は現在、国内の特許を4つ取得しており、米国、欧州、中国でも特許の出願をしています。2023年の4月から試験販売としてお声がけした病院のうち44.6%の病院で採用いただくことになり、2024年から正式に販売を開始しました。今後、さらに周知していきたい、大阪の卸業者を中心に関西で販路を拡大したいという思いがあり、大阪トップランナー育成事業に応募し、今回ご支援をいただくことができました。また、販促ツールの作成の際には紹介してもらったデザイナーの方が商品の特徴を的確に言語化し表現してくださり、納得のいくツールを作ることができました。我々の製品は言語化できて初めてロジカルにアプローチできるので、今後、どのようなフィードバックがあるか楽しみでもあります。
- 既に製品化されていますが、どのような手応えを感じていますか
-
原
医療業界では病院が医療機器の卸メーカーに対して発注をするのですが、実際に「javallaありますか」という問い合わせが多いと聞いています。そのように製品名で問い合わせがあることは滅多にないそうで、それだけインパクトが大きかったのかなと感じています。現在、人工呼吸器用マスクでできてしまった褥瘡というのは、治す手段がないというのが実情です。看護師さんからは、一番手を焼いていた部分の解決策が手に入ると、非常に喜ばれています。ただ、その分、既存の製品と比べると価格が2、3倍と高くなり、コスト面ではあまり喜ばれない現状がありますが、今後需要が高まり大量生産できればコストを下げることもできます。どれだけ多くの病院で使ってもらえるかが、私たちのやりたいことに直結すると思っています。
患者さんが少しでも快適に呼吸できる未来をつくる
- この技術を今後、どのように展開していきますか
-
原
小児向けの人工呼吸器用マスクの開発は、一つの可能性としてあります。子どもの頭は未発達で柔らかいので、既存の人工呼吸器用マスクを着けて締め付けると頭の形が変形してしまいます。ただ、その開発には相当時間がかかると思うので、まずは大人用を普及させることが重要です。「javalla」は、非常に高度な日本のものづくりの結晶でもあります。大阪から世界へ、日本の技術力の高さを知らしめたいという気持ちもあります。この革新的なマスクの普及を通じて、患者さんが少しでも快適に呼吸できる未来をつくりたい。日々奮闘する医療者の負担を軽減したい。そんな想いで、私たちはこれからもこのプロジェクトを推進していきます。
希望するマッチング
&パートナー例
- 非侵襲的陽圧換気を行う医療機関、介護施設や老人ホーム関係者
- 呼吸管理に関わる医師、看護師、臨床工学技士等の専門家
- 睡眠時無呼吸症候群や神経難病で在宅陽圧換気療法を行っている患者様