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2013年6月18日

~介護保険適用が在宅普及の起爆剤に?!~
在宅化推進で急拡大が期待される介護ロボット市場

団塊の世代が75歳以上となる2025年へ向けて、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、国では、住まい、医療、介護、予防、生活支援を、日常生活の場で一体的に提供できる地域での体制(地域包括ケアシステム)づくりを進めている。
このシステムの中核となるのは「住まい」で、自宅、サービス付き高齢者住宅(サ付き住宅)、有料老人ホーム、いわゆる「在宅」となるといわれている。
そのような流れから、最近になって、介護ロボット(ロボット介護機器、先端医療機器)の施設での導入(検討)が始まった段階である。一方で、国の介護施策では在宅化が一層推進される見通しとなっていることから、今後、長期的には在宅向けの介護ロボットニーズが高まると考えられる。成長の起爆剤となりそうなのが介護保険への適用だ。経済産業省の試算(METI市場規模「介護ロボットの導入加速に向けて」より)では、介護ロボット市場は2015年に167億円、2035年には4043億円に達すると予測されている。
しかし、在宅における介護ロボットの利用を考えると、十分な空間が確保され、専門職が常駐する施設と、バリアフリー化すら完全には徹底されておらず高齢の介護者または要介護者本人が操作せざるをえない自宅とでは、必然的に必要とされる条件やスペックが異なってくることが予想される。

今月は、要介護者または患者の自宅以外に、サービス付高齢者向け住宅等も含む「在宅」で求められる介護ロボットへのニーズや条件等について考える。

<参考とした調査の概要>
  • 調査名:「高齢者在宅介護における実態調査
  • 調査主体:公益財団法人大阪市都市型産業振興センター 新産業創造推進室
  • 調査対象:スマイル・プラス株式会社が運営する「介護レク広場」に登録している会員3万人のうち、プレアンケートにて回答を了承した100名(在宅介護経験者 19名、在宅介護を支援している介護従事者59名、在宅介護と介護職の両方の経験者 22名)
  • 調査時期:2012年12月11~21日

※記事をご覧いただく場合は「詳しく見る▼」ボタンをクリックしてください。

1.在宅における介護ロボットニーズ ~「食事介助」は機械化したくないが半数近く~

現在、日本の医療・介護施策では、国民の「家で過ごしたい・死にたい」というニーズに応えるとともに、国の医療費・介護費用の低減を図るため、在宅化が推進されている(本欄「国を挙げて進む在宅での医療・介護」ご参照)。この中では、療養・看取りまでを在宅で行うことが想定されているが、そうなると、症状や病状の急変だけでなく、重篤な状況や、ターミナルケアまでも在宅である程度対応できる環境や体制が求められるということである。
しかし、65歳以上の高齢者のいる世帯は夫婦のみまたは単独世帯が過半数を占めている。その大半の自宅には、専門的知識や技術をもった人もマンパワーも乏しく、在宅サービス等を活用できたとしても、24時間の生活を考えると、ケアの質・量ともに十分とは言えない。
そこで期待が高まっているのが、在宅における移乗・移載・移動、排泄等の介護負担の軽減やリハビリ、歩行等の自立支援、コミュニケーション・見守り支援等を担う介護ロボットの活用である。

ここで、在宅における介護の各動作における課題を把握する。
まずは、食事に関する主な課題としては、「介護食の献立」と「食べない時の対処法」の2項目で、全体の約4分の3近くを占めている(本調査では、調理や食事介助に関する選択肢は無い)。介護食となると、刻み・ミキサーなど特別な処理が必要となったりする上、体調が悪かったり体力が低下していると食欲が無い場合も多く、献立作りは一苦労と考えられる(介護食でなくても、日々の献立づくりに悩む主婦は多く、そのニーズの多さがレシピサイトの隆盛につながっている)。

図表1 食事に関する主な課題(SA、%)

図表1 食事に関する主な課題

出所)公益財団法人大阪市都市型産業振興センター 新産業創造推進室
出典)「 高齢者在宅介護における実態調査」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

入浴に関しては、「風呂場・脱衣所の構造」が最も多く挙げられている。(なお、「特になし」と回答している場合の大半は、「入浴を家で行わず、介護施設にお願いしている」という理由である)。

図表2 入浴に関する主な課題(SA、%)

図表2 入浴に関する主な課題

注)上記の具体例

「風呂場・脱衣所の構造」

  • 介護スペースの増設
  • 滑り止め対策
  • 床面と浴槽の高低差緩和
  • 手すりの設置
  • 浴室出入り口の段差の軽減

「入浴拒否」を受けた際に、要介護者から言われて、対応に苦慮する例

  • 入浴自体が疲れるから入りたくない
  • 入浴は夜と決めているので、デイで日中に入浴したくない
  • 脱衣場と浴槽の温度差があるから入りたくない
  • 汚くても気にならない

「腰痛等の身体的負担」に関して知りたい情報例

  • 身体を痛めない移乗法
  • 自分より体格の大きい方への対応法
  • 浴槽出入り時の介護者の身体的負担緩和

出所)公益財団法人大阪市都市型産業振興センター 新産業創造推進室
出典)「 高齢者在宅介護における実態調査」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

排泄に関しては、「臭い」「トイレのタイミング」「トイレまでの移動」「失禁」「オムツ交換」「夜間の頻尿」等が押しなべて挙げられている。

図表3 排泄に関して課題と感じていること(SA、%)

図表3 排泄に関して課題と感じていること

注)上記の具体例

「臭い」

  • 冬季は洗濯物がたまりやすく、布団も干せず、乾かないため、特に臭いがこもる。
  • 紙オムツを自分で処理してしまうため、綺麗にふきとれず、臭いがする。
  • 消臭剤がきかない。
  • 要介護者自身からの臭いが消えない。

「トイレまでの移動」

  • 移動経路にあるドアの開閉がスライド式でなく、移動が不便。
  • 車イスでの移動が出来ない
  • 部屋からトイレまでに温度差がある。
  • 介護する側が腰痛のため、移動に時間がかかる。

「失禁」

  • 羞恥心を傷つけないことが可能な対処法がわからない。
  • 布団が濡れて乾かない。
  • 失禁を隠してしまう。
  • 夜尿が多量で漏れてしまう。

「夜間の頻尿」

  • 家族の寝不足。
  • 夜中に大声で叫んで呼ぶため、近隣の目が気になる。
  • 夜中の頻尿は寝ぼけながらなので、失禁につながる。

「オムツ交換」

  • 体位交換時の双方の身体的負担。
  • オムツ交換中の排便・失禁による双方の心理的負担。
  • オムツ交換を抵抗される際の対処法がわからない。

出所)公益財団法人大阪市都市型産業振興センター 新産業創造推進室
出典)「 高齢者在宅介護における実態調査」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

ここまで、食事、入浴、排泄に関する結果を見たところ、各動作において多岐にわたる課題があり、全てがロボット導入によって解決されるわけではないが、部分的には機器やICTなど広義のロボットによって解決が可能なことも含まれていると考えられる。なお、調査項目には挙げられていなかったが、他にも、移動や移乗・移載、転倒時の起き上がり等についての支援においてもロボットへのニーズはあると考えられる。

一方、在宅介護における機械化したくないことをきいてみると、「食事介助」が最も多く、その理由として、食事におけるコミュニケーションの大切さや、誤飲・誤嚥が機械の判断への心配等が挙げられた。オムツ交換、入浴介助に関しても、体調管理や人の手の温もりの大切さを強調する意見が挙げられた。

図表4 在宅介護における機械化に対する懸念と期待(SA、%)

図表4 在宅介護における機械化に対する懸念と期待

注)上記を機械化したくないとする具体理由

「食事介助」

  • 食事は会話しながらするものだから。
  • 体力を使うことでなければ機械化する必要を感じない。
  • 嚥下の完了などは人の目でないと無理。
  • ロボットでは急変に気づけない。

「オムツ交換」

  • 機械では皮膚状態の把握ができない。
  • 尊厳を守りたい。
  • 人の手のぬくもりが必要な作業だから。

「入浴介助」

  • 機械は感触が冷たいから、人の手で行いたい。
  • 身体の変化は、人の手のひらでないとわからないから。

「選べない」理由

  • 人の身体には機械を使えない。

「特にこだわりはない」理由

  • 介護する側の負担が軽減することが、優しくなれることにつながる。
  • 機械化のほうがお互いに気兼ねがない。
  • 介護する側の身体が限界になっている。

出所)公益財団法人大阪市都市型産業振興センター 新産業創造推進室
出典)「 高齢者在宅介護における実態調査」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

(御参考)施策の方向性
1.国のロボット開発における重点課題

経済産業省と厚生労働省は、今後のロボット介護機器の開発・実用化に係る重点分野として、以下の分野を策定している。

【ロボット技術の介護利用における重点分野】
■今後の開発等の重点分野

(1)移乗介助
○ロボット技術を用いて介助者のパワーアシストを行う装着型の機器
○ロボット技術を用いて介助者による抱え上げ動作のパワーアシストを行う非装着型の機器
(2)移動支援
○高齢者等の外出をサポートし、荷物等を安全に運搬できるロボット技術を用いた歩行支援機器
(3)排泄支援
○排泄物の処理にロボット技術を用いた設置位置の調整可能なトイレ
(4)認知症の方の見守り
○介護施設において使用する、センサーや外部通信機能を備えたロボット技術を用いた機器のプラットフォーム

■引き続き調査・検討を行う分野
以下の分野については、引き続き両省で調査等を行った上で、必要に応じ、両省が実施する開発等の支援における重点への位置づけを検討する。

(1)日常生活支援
○排泄支援
  • おむつ交換、清拭、衣服の着脱、トイレまでの移動
○入浴支援
  • 浴槽までの移動、浴槽への出入り
  • 足部等の部分浴
○その他
  • 口腔ケア、その他
(2)認知症高齢者支援
○見守り
  • 夜間や要注意箇所(浴室等)での見守り
  • 更に高機能かつ便利な離床センサー
  • 一人暮らしの要介護者用の複合的機能を持つ見守りシステム
  • 服薬・摂食・水分摂取等の確認
  • 睡眠を確認できるセンサー
○認知症ケア
  • 不安感・焦燥感の軽減
  • 様々な作業の動機付け
○家事支援
  • 家事労働を行うための簡易な支援機器

(3)介護施設の業務支援

  • 洗濯物等の運搬
  • 掃除を含むその他の業務

(4)予防・健康維持

  • 歩行支援
  • 生活に必要な運動機能低下の予防

出所)厚生労働省ホームページより

2.介護保険への適用

国では「日本再生戦略2012年(7月31日)」においてエネルギーや環境、医療・介護などを成長の柱と位置づけているが、中でも、医療・介護分野における4つの柱の1つとして「ロボット技術による介護現場への貢献や新産業創出/医療・介護など周辺サービスの拡大」を重点施策に掲げている。今後、2013年度までに介護ロボットの安全性や性能の評価手法を確立し、2015年までに1000~5000台導入することを目的としている。
それに伴って介護保険の適用も検討されており、まず、2012年度から寝たきりの排せつを支援する機器(自動排泄処理装置)が介護保険の介護レンタル品として適用されることになった。今後は、2013年度中に経済産業省と厚生労働省が新たに保険適用する補助機器の種類を選定し、次回の見直し時期である2015年度から適用範囲を拡大して本格的な適用が開始される見込みである。

2.介護ロボットに求められる“在宅スペック”

ここまで見たように、介護用のロボットは、見守りや家事援助以外では、利用者に接触するタイプが多いため、実際の利用に当っては高い安全性とともに感触等も重要な観点である。従って、自動車や家電製品等の非接触型の物づくりとは異なる要素技術や安定性、完成度の高さが求められるはずだ。そのように、介護ロボットには、ただでさえ高い技術水準が要求されるのに、在宅での利用となると、一層、ハードルが上がり、様々な工夫が求められる。
それは、主に、在宅という利用環境と操作する人の機器へのリテラシーが高くないこと、医療・介護の専門職が不在の環境であること等による。以下で順に補足する。
まず、在宅は、機能が優先された施設と違って、スペースが限られており、段差もあり、物が多く、大半の床にはじゅうたんが敷いてあって、掃除が行き届かない埃の多い場所もあり、空調がONになっていない限り極端な温度・湿度となる可能性もある。それらの過酷な環境に耐えられることが要求される。また、自宅は生活の場であるため、小型で、安定性も備えながら通行の妨げやケガのきっかけにならない形状であるだけではなく、空間に馴染む違和感の無いデザインであること、音が静かで電力消費が小さいこと等も重要な点となってくる。
また、自宅では配偶者など高齢者が介護を担っている場合も多い。昼間は同居家族が不在であったり、完全な独居であったりする場合には、要介護者本人が操作をする状況も出てくるかもしれない。さらには、本人に認知症状がある場合も考えられる。軽量で移動・持ち運びが容易な形状であることはもちろん、機器のインターフェイスを可能な限り分りやすくする、想定しない使い方にならないようなアルゴリズムを設定する、誤作動の防止・安全装置が確実に働く、遠隔操作が可能であるといったことも必要になるだろう。
介護は直接的な身体介護だけでなく、見守りも多くの時間を占めるため、見守りを支援する機器を生活にうまく取り入れられれば、介護者が休養・気分転換に割ける時間が生まれる。介護職がいない環境では、専門職につなぐ機能は非常に重要である。在宅では、生死に関わる緊急事態以外にも、転倒の際に起き上がれない・高齢女性が介護者の場合には起こせないといった事態も発生しうるが、深刻な非常事態でもない限り自治体が契約する緊急通報システムを使うとも難しい。また、例え、転倒等に駆けつけてくれるサービスがあったとしても、本人が自発的に通報するだけではなく、モニタリングによって連絡が繰るようなものが求められる。さらには、家族構成によってはコミュニケーションが減ることも考えられ、メンタルヘルス不全の予防を考えると、言語をやり取りできる癒し目的のロボット等も需要はあるはずだ。記録・分析・通信の機能があれば、体調管理にも大いに貢献できる。

まとめ

  • 以上の様に、在宅での利用は、施設とは異なるスペックを要求されたり、より高い安全性が求められたりすると考えられる。中でも安全性に関しては慎重に確認が求められる。在宅での介護に詳しい専門職による詳細な検討や段階的なモニタリング等が必要となろう。
  • ただでさえ介護人材は今後も不足することが予想されており、そこに介護の在宅化が進めば必要なマンパワーがさらに増えることから、現状の方法を維持したままでは人手不足が一層深刻化する。介護ロボットは介護職の代替、介護人材不足解消という側面から、介護業界には必要不可欠であると考えられる。
  • 普及に関しては、認知度向上、販路の拡大とコスト負担軽減において、介護保険の適用が鍵となりそうだ。当面は、介護保険の適用対象がどこまで広がるか、製造側がどこまでそれに応えられるか等で、市場規模が大きく影響を受けるだろう。ただし、介護保険では、保険対象の機能以外の機能が付加されたものは保険適用外となってしまう。介護保険を意識するあまり、機器の機能が制限される事態も起こりえる。専門職が不在の自宅では、モニタリングやセンシング、通信等の機能が施設以上に必要になると考えられるが、それでは介護保険の対象とならない。例えば、排泄にそれらの機能が付加されていれば、健康管理に非常に有用であると考えられるが、そのようなものは介護保険適用とならないため、開発側も二の足を踏むだろう。
  • 介護ロボットの導入は、雇用機会の喪失につながるという危機感をもつ専門職が活用を反対する場合も有り得る。ロボットが普及してくれば、ロボットは人の手による温もり等が必要な場合以外の労働集約型の業務を担当し、介護の専門職は、企画・調整等の業務を担うように役割分担がなされることが必要になるかもしれない。そうなると、介護職に求められるスキルも異なってくる。
  • 介護ロボットは、センシング、制御、人工知能といった高度な要素技術とそれらの“すり合せ”が必要な、非常に高度な技術が集積する商品である。パソコンのようにパーツを組み立てれば比較的容易に完成できる商品とは異なる。いわば日本のものづくりが得意とする分野であり、当面は途上国が参入・量産化できるようなものではない。今後は、国内のみならず、海外市場も見据えて大きな成長可能性がある有望市場である。

編集人:井村 編集責任者:前場
編集協力:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社