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2014年03月18日

70歳まで働く!雇用延長がもたらすビジネスチャンス
~健康産業がシニア・ビジネスパーソンの生産性を上げる~

2013年現在、働く人の1割以上が65歳以上の高齢者となっている。これは、高齢者人口の増加とともに、年金支給開始年齢の引き上げや、2013年4月改正の高年齢者雇用安定法で60歳以上の継続雇用を企業に求めていること等が影響している。そして、今後も、これらの傾向がさらに進展することから、シニアの就労者は一層増加していくものと考えられる。

しかしながら、高齢になると、生きがいの充実、生活費補填など就労目的にかかわらず、働く上で、なんらかの健康上の不満が出てくることが多い。せっかく経験も就労意欲もあっても「体がついてこない」といった状況になりかねない。

企業が短時間勤務や非常勤など多様な雇用形態を提供する一方、個人がなるべく長く快適に、しかも、希望の職種や就労形態を選ぶには、体力や気力など健康状態の底上げを図る必要が出てくる。

今月は、シニア・ビジネスパーソン(高齢就労者)の健康ニーズを対象としたビジネスチャンスについて検討する。

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1.「70歳まで働くのが当たり前」の時代に?!~60代の8割以上が「自分は高齢者ではない」、「70歳以上になっても働きたい人」が7割以上~

今や人口の4分の1以上が65歳以上の高齢者となり、「年をとっているから」と、特別扱いされる存在ではなくなりつつある。それどころか、自分自身を高齢者だとは思っていない人の割合が、60代では81.5%に上り、65-69歳でも74%、70-74歳でも47%に達するという調査結果もある(ワタミタクショク「高齢者の高齢者に対する意識調査」、2013年8月、50-70代男女600名対象)。

また、同調査によると、50-70代が高齢者だと思う平均年齢は約70.5歳であり、現在の国の定義とは5歳以上も乖離している。つまり、60代までは現役世代であると考える人が多いと推測される。

一方、「70歳以降まで」または「働けるうちはいつまでも」働きたいと考えている人が7割以上に達している(内閣府「高齢者の地域社会への参加に関する意識調査」、平成20年、全国60歳以上男女)。しかし、実際には、就労の機会の不足や、条件が合わないといった理由で、60代後半の就業率は4割弱に留まっている。

就労の主な目的は、生きがいの創出や収入を得ること等であるが、同調査によると、仕事を選ぶ際に最も重視する点として、60~64歳では25.7%が「収入(賃金)」が最も多く、その他の年齢階級でも、「収入(賃金)」を最も重視する人が大きく増加している。

このように、高齢者が収入を得たいと考える背景には、年金支給開始年齢の引き上げという事情もある。現在60代前半(昭和24年4月2日~昭和28年4月1日生まれ)の男性が、満額支給を受けるのは65歳からとなっている(報酬比例部分のみ60歳から支給)。また、男性で昭和36年4月2日以降、女性で昭和41年4月2日以降の生まれの場合、完全に65歳からの支給となり、60歳で退職すると無収入の期間が5年間続くことになる。

働きたいという希望があっても、65歳以上となると、他の年代と比較して体力・感覚器等の機能が低下しがちであり、主訴も多い。主訴として多いのは「腰痛」「肩こり」「手足の関節が痛む」等であるが、全年代平均と比較して特に多いのは、「きこえにくい」「息切れ」「便秘」「もの忘れする」「目のかすみ」「耳なりがする」等である(厚生労働省「平成22年国民生活基礎調査」)。業務に直結していなくても、継続的に勤務するに当たって障害となりそうな問題や悩みが並んでいる。

このように、働きたいシニアは多いものの、健康・体力面での状況から働けていない人も多く存在することがうかがえる。

2.シニア・ビジネスパーソンの健康ニーズ

<顕在化するシニア・ビジネスパーソン向け健康ビジネス>

シニア・ビジネスパーソンの主な健康ニーズには、(1)体力(出勤・移動等に必要な脚力、疲労の予防・回復)の維持・向上、(2)脳機能(記憶力、判断力、集中力、気力・意欲、思考スピード等)の維持・向上、(3)個別業務に必要な身体機能(目・耳等の感覚器、筋力・敏捷性等)の維持・向上等があると考えられる。また、加齢に伴って、自律神経の調節機能等が低下したり、筋力の低下によって血流が悪くなったり、代謝の低下といった変化が表れ易くなる。そして、それらが根本原因となって頭痛や肩こり・腰痛、不眠等、全身の様々な問題につながることもある。

シニア・ビジネスパーソン向け健康ビジネスの一例

◇ 食・栄養

・ビタミン、ミネラル、アミノ酸等必須の栄養素の補給
例)「リソース ペムパル」「アイソカル ジェリーPCF」(ネスレ)
「アミノ酸配合ゼリー」(LEOC)
ビタミン、プラセンタ等の点滴・注射
・抗酸化物質等の補給(抗疲労、自律神経調節等)
例)「イミダペプチド」(日本予防医薬)
「ツムラ漢方 半夏厚朴湯」(ツムラ)
・断食、マクロビオティクス、食養生
例)「やすらぎの里(断食道場)」
「ファステンクラブ」(イムダイン) /等

※シニアは偏食(炭水化物過多)しがちであったり、食欲・消化・吸収機能が低下している場合があるため、それらに配慮する必要がある。

◇ 運動

・シニア専用の運動施設
例)「新宿エクササイズルーム」(東急スポーツオアシス)
・身体技法(アレクサンダーテクニーク、フェルデンクライス、野口体操等)
例)「BODY CHANCE」(アレクサンダー・テクニーク・アソシエイツ)
「TRE」(TRE Japan)

※企業向けには、上記個人向け商品・サービスの斡旋・割引価格での提供、現物支給、社内での講座開催等が考えられる。

◇ コミュニケーション

・見る・聞くを支援するIT等のツール、機器
・物忘れを防ぐ管理ツール /等

◇ その他(企業向け)

・疲労を予防する執務環境や什器
例)「ワークサイズ プランニング」(イトーキ)
・作業負荷を軽減する機器・環境(重筋作業、姿勢等)
・シニアに不足しがちな栄養や吸収、嗜好を考えた社員食堂のメニュー
・シニアの体力・機能向上のための健康プログラムを取り入れた
 人事制度やキャリア・マネジメント等にかかるコンサルティング  /等

<いくらまで就労のための健康投資に支出するのか?>

世帯主の年齢階級別1世帯当たり1か月間の費目別消費支出額をみると、世帯主の年齢が60歳以上の世帯では、衣食住や光熱費、保健医療、交通・通信費など生活に必要な支出項目を除いた交際費、教養娯楽費等を合わせると5万円以上支出している(総務省「家計調査年報」、平成23年、総世帯ベース)。もちろん、これらの全額が健康にまわることは無いものの、「背に腹は代えられない」状況となれば、これらの中からある程度の支出は可能と考えられる。また、保健医療への支出が約1.3万円となっており、この中から健康投資にいくらか支出することもあり得る。

就労のために健康にどこまで支出するのかは、経済状態もさることながら、むしろ、働き続けなければならない切迫度の影響が大きいと考えられる。例えば、中小企業経営者(オーナー等)や、老後生活に必要な蓄えを得るために就労している場合、仕事自体が大きな生きがいとなっている場合等が考えられる(最低限の生活水準等、健康に支出する余裕が全く無い場合は除く)。

【参考】

これだけは覚えておきたいシニアマーケット基礎数字(2)
~生活のゆとりは増えても、健康が不安~

3.「シニアの健康ニーズ(アンチエイジング)」≒「疲れた若年・中年、女性の健康ニーズ(抗疲労)」

こうしてみると、シニア・ビジネスパーソン向け健康ビジネスは、疲れた若年・中年、あるいは女性のビジネスパーソン向けのものと共通する部分も多い。シニアの方が必要度は高いかもしれないが、それ以下の年代でも慢性的に疲れている人の場合は、同じ方法論が活用できると考えられ、汎用化が期待できる。

なお、前述のように、自分自身は高齢者ではないと考える人が多いので、「年寄り向け」訴求は厳禁であり、「疲れたビジネスパーソン向け」等の方がシニアにもかえって受け入れられ易いとも考えられる。

一方、企業においては、個人向けより立ち上がりは緩やかかもしれないが、長期的には、シニアの知見やスキル、ネットワーク等を最大限活用するために健康増進施策を取り入れることも考えられる。シニア・ビジネスパーソンが働きやすい環境は、そのまま全年代の従業員の生産性にも好影響を与えるはずである。今後は、シニア向けを皮切りに、従業員の健康増進対策が進む可能性がある。

編集人:井村 編集責任者:前場
編集協力:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社