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2014年01月14日

これからの介護・医療機器は在宅仕様・IT対応が必須
~国の施策で進む在宅化・IT化~

本稿では過去*にも国の介護・医療に係る施策の方向性について紹介してきたが、今後も介護・医療機器市場に大きく影響することから、ここで改めて整理する。

*国を挙げて進む在宅での医療・介護~「在宅医療・介護あんしん2012」から~(2013年1月15日)

*~介護保険適用が在宅普及の起爆剤に?!~在宅化推進で急拡大が期待される介護ロボット市場(2013年6月14日)

*社会保障制度改革『要支援は介護保険外、施設から在宅へ』~要支援向けサービスの単価下落?~(2013年9月17日)

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1.医療も介護も進む在宅化

2013年8月6日にとりまとめられた社会保障制度改革国民会議の報告書の中には下記の様な箇所が含まれる。

1. 改革が求められる背景と社会保障制度改革国民会議の使命

(1)改革が求められる背景

○高齢化の進展により、疾病構造の変化を通じ、必要とされる医療の内容は、「病院完結型」から、地域全体で治し、支える「地域完結型」に変わらざるを得ない。

(2)改革の方向性

○急性期医療を中心に人的・物的資源を集中投入し、早期の家庭復帰・社会復帰を実現するとともに、受け皿となる地域の病床や在宅医療・介護を充実。川上から川下までの提供者間のネットワーク化は必要不可欠。

(3)医療と介護の連携と地域包括ケアシステムというネットワークの構築

○「医療から介護へ」、「病院・施設から地域・在宅へ」の観点から、医療の見直しと介護の見直しは一体となって行う必要。
○地域包括ケアシステムづくりを推進していく必要があり、平成27年度からの介護保険事業計画を「地域包括ケア計画」と位置づけ。
○地域支援事業について、在宅医療・介護連携の推進、生活支援サービスの充実等を行いつつ、新たな効率的な事業として再構築。要支援者に対する介護予防給付について、市町村が地域の実情に応じ、住民主体の取組等を積極的に活用し、柔軟かつ効率的にサービスを提供できるよう、受け皿を確保しながら、段階的に新たな事業に移行。

出所)「社会保障制度改革国民会議 報告書(概要)~確かな社会保障を将来世代に伝えるための道筋~
平成25年8月6日 社会保障制度改革国民会議」より抜粋(太字は三菱UFJリサーチ&コンサルティング)

また、上記の他、報告書本文には下記の様な記載がある。つまり、医療も介護も、病院や介護施設でのサービスは重篤者等に限定・集中させることで極力抑制して、該当しない人は、在宅で医療や介護を受けるという方向性が示されている。しかも、医療と介護別々ではなく、一体的に推進・整備することを示している。

この点を補足すると、高齢者は介護を受けていても複数の症状や慢性疾患を持つ人が多く、医療と介護の両方が必要なことも多い。ロコモティブシンドローム(運動器の障害による要介護リスクの高い状態)だけでなく、メタボリックシンドローム等から脳卒中等が引き起こされると、認知機能が低下することもある。つまり、疾病の予防、治療、リハビリという医療の流れと、生活の支援という介護の流れは切り離せない。また、要介護度が高くなるほど、終末期に近づくほど医療の割合が大きくなる。

「医療の機能分化を進めるとともに急性期医療を中心に人的・物的資源を集中投入し、後を引き継ぐ回復期等の医療や介護サービスの充実によって総体としての入院期間をできるだけ短くして早期の家庭復帰・社会復帰を実現し、同時に在宅医療・在宅介護を大幅に充実させ、地域での包括的なケアシステムを構築して、医療から介護までの提供体制間のネットワークを構築する」

「急性期から亜急性期、回復期等まで、患者が状態に見合った病床でその状態にふさわしい医療を受けることができるよう、急性期医療を中心に人的・物的資源を集中投入し、入院期間を減らして早期の家庭復帰・社会復帰を実現するとともに、受け皿となる地域の病床や在宅医療・在宅介護を充実させていく」

「これまで1 つの病院に居続けることのできた患者は、病状に見合った医療施設、介護施設、さらには在宅へと移動を求められることになる。」

「高齢の単身世帯や夫婦のみ世帯が増加していくことをも踏まえれば、地域で暮らしていくために必要な様々な生活支援サービスや住まいが、家族介護者を支援しつつ、本人の意向と生活実態に合わせて切れ目なく継続的に提供されることも必要であり、地域ごとの医療・介護・予防・生活支援・住まいの継続的で包括的なネットワーク、すなわち地域包括ケアシステムづくりを推進していく」「介護ニーズと医療ニーズを併せ持つ高齢者を地域で確実に支えていくためには、訪問診療、訪問口腔ケア、訪問看護、訪問リハビリテーション、訪問薬剤指導などの在宅医療が、不可欠である。」「介護サービスについて、24 時間の定期巡回・随時対応サービスや小規模多機能型サービスの普及を図るほか、各地域において、認知症高齢者に対する初期段階からの対応や生活支援サービスの充実を図る」

「介護サービスについて、24 時間の定期巡回・随時対応サービスや小規模多機能型サービスの普及を図るほか、各地域において、認知症高齢者に対する初期段階からの対応や生活支援サービスの充実を図る」

「特別養護老人ホームは中重度者に重点化を図り、併せて軽度の要介護者を含めた低所得の高齢者の住まいの確保を推進していくことも求められている。また、デイサービスについては、重度化予防に効果のある給付への重点化を図る」

出所)「社会保障制度改革国民会議 報告書 平成25年8月6日 社会保障制度改革国民会議」より抜粋

2.医療と介護の在宅化で変わる医療・介護機器市場

在宅での生活者・療養者の増大による必要数の増加

在宅化が進むということは、当然、既存の病院や介護施設等で使用している機器類の在宅での使用に対する需要が高まる。例えば、在宅で要介護者が使用するものや、訪問看護などの在宅医療※や介護の専門職が使用するものもである。

※訪問診療、訪問口腔ケア、訪問看護、訪問リハビリテーション、訪問薬剤指導等

機器を在宅に持ち込むにあたって求められるスペック

~小型化、軽量化、簡易な操作性、デザイン性、廉価~

在宅は、医療機関や介護施設とは異なり、スペースが狭いうえ、細々とした生活用品が多い。また、操作するのは高齢の介護者である場合もあることから、軽量で扱いやすいものである必要がある。さらには、在宅空間においても違和感のないデザインである点や、必ずしも保険給付の対象となるとは限らないことから、廉価であることも重要である。

~予防、自立支援、QOL向上、介護者の負担軽減~

国民の人生の質を向上させるだけでなく、社会保障給付を抑制するために、疾病や介護の予防、自立支援は国の施策の柱の1つとなっている。そこで、今後は、急性期や要介護度の高い人向けの機器だけではなく、そのような観点の機器への需要が高まることが考えられる。また、排泄・入浴介助など要介護者の心理的負担を軽減する機器類や、腰痛を防止するリフト・移乗・移載ロボットの様に介護者の負担を軽減(作業負荷の軽減・省力化)する機器類や、QOL向上や介護人材確保等の観点から一層必要性が高まると考えられる。

~治療やケアの質を上げるIT化

昨今、尿糖や睡眠、自律神経等を測定する個人向け機器や、体重や運動、食事の状況をデジタルデータとして記録するサービスやアプリなどのビジネスが次々と登場しており、国においてもカルテやレセプトの電子化とそれらの活用に一層注力している。ビックデータを扱えるインフラも整ってきた。

医療・介護の在宅化においても、IT化は必須である。在宅での看護・介護の場合、疾病を抱えている人は多く、今後はさらに増加するため、複数医療機関で投薬を受けている場合のコントロールはもちろん、生涯にわたる既往歴とそれらの患者データを医療・介護の専門職で共有するネットワーク化が欠かせない。

また、どこまでの重症者が在宅となるかにもよるが、高齢者はそれほど重篤な状態でなくても体調が急変しやすい。専門職が常時いない空間での急変時対応、そのためのモニタリング、データの蓄積・履歴保持、転送機能等のある通信機器、あるいは、制御機能のある機器等が一層求められる。また、その他の機器に関しても、それらの機器との親和性のある(データの入出力可能、データフォーマットが共通等)ことが重要となってくると考えられる。

編集人:井村 編集責任者:前場
編集協力:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社